発達特性はアクセルとブレーキ ― 環境によって短所にも長所にも

監修:院長 小山 博史

発達相談をしているとネガティブなお話ばかり聞かされる事が多いものです。たしかに皆が上手くいくわけではないですが、発達特性は良い面、悪い面があり、人それぞれの違いがある事で社会全体としてバランスがとれている側面があります。また今いる環境では問題とみなされても、違う環境ではまったく別の扱いを受ける場合があります。

目次

基本の考え方:アクセルとブレーキ

発達障害の特性は「短所の裏返し」ではなく、人が社会で生きていくために必要な相反する機能として捉えることができます。アクセル(進む・変える)とブレーキ(留まる・守る)のどちらが良い悪いではなく、場面に応じてどちらを強めるかの問題です。

※)衝動性とこだわり、多動性と過集中、不注意と不安は、医学的に対極の特性ではありません。同じ人に共存することも多く、それぞれ独立して評価されます。ここでのペアは医学的分類ではなく、社会の中で果たす役割をアクセルとブレーキに例えた、説明のための整理です。

アクセルとブレーキのペア

社会には両方の力が必要であり、一人の中でも両方を使い分けることができます。

アクセルブレーキ両方が社会に必要な理由
衝動性(まず動く・変える)こだわり(簡単には変えない・守る)改革と継続
多動性(広く探索する)過集中(深く探究する)発見と専門性
不注意(注意が移る・手放す)不安(危険を見張る・気にかける)発想の転換と安全確認
新奇性追求(新しいことを試す)同一性保持(慣れたことを守る)革新と安定
率直さ(疑問を口にする)慎重さ(発言前に考える)問題提起と対人調整
楽観性(可能性を見る)悲観的予測(失敗を想定する)挑戦と危機管理
興味の拡散(多分野に関心)興味の限定(特定分野を追究)知識の横断と専門性

一人ひとりはアクセル寄りやブレーキ寄りに偏っていても、アクセル寄りの人がいれば必ずブレーキ寄りの人も存在します。だからこそ、社会全体としてバランスが成り立っているとも言えます。

アクセル側の特性

衝動性

  • 決断力があり、行動が速く、思い切りが良いです。
  • 「めんどくさい」は発明の母です(効率化のきっかけになります)。
  • 考えすぎて機会を失う前に行動できるので、チャンスを逃しません。
  • ルールにとらわれず、「これ、意味あるの?」と問い直すことができます。
  • 先入観にとらわれず、「普通はこうする」を飛び越えられます。
  • ルールより目的を優先できます。
  • 合わなければすぐ方針転換できます(損切りが早い)。
  • 誰も動かない状況で最初の一歩を踏み出し、周囲の行動を促します。
  • 経験を積んだ分野では、直感的な判断が速くなります。
  • 失敗を恐れずまず試せるので、経験値が早くたまります。
  • 失敗を引きずらず、次の挑戦に移れます。
  • 緊急時に固まらず動けます。

多動性

  • 活動力・機動力・エネルギーが高く、周囲を活気づけます。
  • 好奇心が広く、いろいろな分野に挑戦できます。
  • 複数の仕事を並行して進められます。
  • 変化の多い環境に適応しやすいです。
  • 活動範囲が広く、異なる分野の人をつなぐことができます。
  • 挑戦の幅が広い分、思いがけない知識や技能が蓄積されます。
  • 行動しながら考えられます(試すことで理解が深まります)。
  • 現場に足を運び、自分の目で確かめます。
  • マンネリを打破できます。

不注意

  • 忘れることは、考え込まず次に進むために必要です。
  • 嫌なことを引きずりにくいです。
  • 細かいことにとらわれず、大きな方向性を考えられます。
  • 注意が移りやすい分、別の可能性や無関係なもの同士のつながりに気づくことがあります。
  • 本来の目的と違うことに目が向き、偶然の発見につながります。
  • 過去のやり方に縛られにくく、新しい方法を考えられます。
  • 自分も失敗を経験しているため、他人のミスに寛容になれます。
  • 「忘れる前提」で仕組みを作るので、メモ・チェックリスト・自動化が上手くなります。

※不注意そのものが創造性を高めると証明されているわけではありません。「状況によって発想の広がりにつながる」という位置づけが適切です。

ブレーキ側の特性

こだわり

  • 粘り強く、専門性があり、正確です。
  • ルールや手順を守る誠実さがあり、信頼されます。
  • 品質に妥協しません。
  • 決まった手順を丁寧に繰り返すため、安定した成果を出せます(再現性)。
  • 繰り返しを苦にせず、知識や技術が蓄積されて熟練につながります。
  • 他の人が見落とす矛盾や誤りに気づきます。
  • 多数派の意見でも、筋が通らなければ疑問を持てます。
  • 流行や評価が変わっても、自分の目標を維持できます。
  • 約束や習慣を大切にし、長期的な信頼関係を築けます。

過集中

  • 好きなことへの驚異的な集中力で、短期間に大きな成果を出せます。
  • 複雑な問題を途中で投げ出さず、最後まで考え抜けます。
  • 表面的な理解で満足せず、仕組みや原理まで追究できます。
  • 興味のある分野では、独学で知識を吸収できます。
  • 他人が関心を示さなくても、自分の興味を追い続けられます。

不安

不安の核は「危険を予測する能力」です。

  • リスクに早く気づき、最悪の事態を想定して備えられます。
  • 慎重で、確認や準備を怠りません。
  • 事故や失敗が許されない場面で、安全を重視した判断ができます。
  • 普段と違う小さな変化に気づきます。
  • 人の気持ちや場の変化に敏感で、配慮ができます。
  • 失敗したくない気持ちが、責任感や丁寧さにつながります。
  • 周囲が楽観的になりすぎたとき、問題点を指摘して集団の暴走を防ぎます。
  • 不注意を補おうとして身についた、自分を守る工夫の証でもあります。

※不安が強すぎると、危険の「予測」ではなく「過大評価」になり、回避や行動の制限につながります。ここが長所と困難の境界となります。

その他の特性

特性長所として働く場面
変化を好む新しい環境への挑戦、改革、開拓
同じことを好む安定した業務、品質管理、技能の熟練
興味の偏り特定分野での専門性、独自の知識
細部への注目誤りの発見、検査、校正、精密作業
パターン認識規則性の発見、分類、体系化
文字どおりの理解言葉の定義を重視し、曖昧な指示や矛盾を指摘できる
率直さ裏表がなく本心が伝わり、駆け引きの少ない関係を築ける
同調圧力に流されにくい独自の視点や異論を出し、集団の思考停止を防ぐ
正義感不公平や筋の通らないことに声を上げられる
一人でいることを好む他人の評価に左右されず、自分のペースで探究できる
感覚の敏感さ微妙な音色、色彩、味、におい、触感を識別できる
感覚の鈍感さ一部の刺激に気を取られず、騒がしい環境でも活動できる場合がある
切り替えの苦手さ一つの仕事を継続し、安易に方針を変えない
質問の多さ既存の説明に満足せず、原理や理由を追究する
生きづらさの経験困っている人の気持ちがわかる共感力

特性は強すぎても弱すぎても困る

特性は「ある・ない」ではなく強さの問題で、適切に働く範囲で長所になります。

特性弱すぎると適切に働くと強すぎると
衝動性決断できない行動力・決断力無計画・危険行動
こだわり周囲に流される一貫性・専門性融通が利かない
活動性行動が少ない活力・積極性落ち着けない
集中気が散る深い理解・成果切り替えられない
注意の拡散視野が狭くなる場合がある広い探索・発想不注意・忘れ物
不安危険を軽視する慎重さ・危機管理回避・行動制限
感覚の敏感さ刺激に気づきにくい微細な違いの検出感覚過負荷

※特性が弱ければ必ず反対の困難が生じるという意味ではなく、説明のための概念図です。

環境によって短所にも長所にもなる

同じ特性でも、置かれた環境によって短所として表れたり、長所として表れたりします。

環境求められること特性の表れ方
学校生活集団行動、広く浅い知識の詰め込み短所として表れやすい
専門性を追求する職業・企業一つの分野を深める力、独自の視点長所として表れる可能性がある

大切にしたいこと

  1. 学生時代につらい経験をさせすぎないこと。ただし、多少のつらい経験は成長のために必要です。
  2. 学生時代に、将来の目標を持てるような経験をさせること。
  3. 成人後の就職では、目的を持ち、「やりたい」という強い気持ちを持てる職業に進めるよう支えること。

年齢とともに変わる特性

 多動や衝動は、年齢とともに落ち着いていく人が多いことが知られています(不注意は大人になっても残りやすい傾向があります)。将来落ち着くことが期待できる多動や衝動については、若いうちは環境を調整して管理することにも意味があります。

 院長の経験では、多動・衝動のコントロール力は「実年齢×0.7」くらいで見積もっています。脳の発達の研究でも、ADHDのある子どもは大脳皮質の厚みがピークに達する年齢が平均10.5歳で、そうでない子ども(平均7.5歳)より約3年遅いと報告されています。7.5÷10.5≒0.7で、この目安とほぼ一致します(Shaw ら, 2007)。

 たとえば14歳の子が「みんなスマホ持ってるやないか、なんで僕だけ」と言うときは、「14×0.7=9.8歳くらいの力だから、まだ自分だけで管理するのは難しいね」と話します。「ならいつになったら持てるのよ!」と聞かれたら、「ある程度自分で管理できるのは14÷0.7=20歳くらいかな。それまでは少しずつ任せていこう」と答えています。

とはいえ、そうした理由でスマホを制限しているのに、兄弟やお父さんが横でスマホをしていたら、本人にとっては”心理的拷問”です。私たちはこの状況をそう呼んでいます。(たとえ仕事で必要だからという理由があっても、子どもの気持としては正当な理由にはなりません。その子の衝動性の強さによっては、家族全員がガラケーにしなければならない状況もあります。)家族の協力が欠かせません。

まとめ

支援の目的は特性を消すことではなく、特性によって生じる困難を減らす環境を模索し、その人の能力を発揮できるようにすることです。

  • 良さは環境が合ったときに一番輝きます。「どこに置けば長所として働くか」を考えましょう。
  • 両方の特性を持つ人は内側でぶつかってしんどいこともありますが、変えるべきところは大胆に変え、守るべきところは徹底的に守るという使い分けもできます。
  • 苦手な部分は、道具・仕組み・人の助けで補ってみましょう。

お役に立ったら、ご家族やお友だちにも教えてあげてください
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