小さな子供に薬を飲ませるのは本当に大変です。子どもの感覚過敏や嚥下運動、医学的、薬学的な制約などに悩まされながら、親は薬を折半して服用させる必要があります。そこで、小児科で処方される一般的な薬を、小さな子供に飲ませるためのテクニックをご紹介します。
1:基本的な姿勢
この基本姿勢は守ってください。
- 薬は決して美味しい食べものではない。だから、味わって飲むものではありません。
- 体を治すために自ら飲むもの。
※味わって飲まさない方法として、服用直後にミルクやお茶を多く飲ませて口内に薬剤が残らない状態にしてください。
※美味しい薬も中にはありますが、そんな薬を飲ませるときでも、決して、美味しいから飲みなさいとはあまり言わないでください。”『病気を治すために必要なもの』と言いつつ飲ませる“という姿勢は大事です。ただし、辛い行為という印象は持たせないよう、楽しい雰囲気作りも年少児には大切です。
2:服薬方法の工夫
水で溶いて スプーンで | |||
スプーン等に薬を取り、 水や湯ざましを入れ、 よく溶きます | そのままスプーン で飲ませます | 飲ませたあとに、 水や湯ざまし、 ミルク(母乳) などをのませ ましょう | |
哺乳瓶の乳首で | |||
水や湯ざましで 薬を溶きます。 (乳首の穴は少し 大きくしておいた 方がよいでしょう) | 溶いた薬を乳首に 入れて吸わせます | 飲ませあとに、 水や湯ざまし、 ミルク(母乳) などをのませましょう | |
団子にして | |||
薬に水や湯ざましを 数滴入れて、ねって、 だんご状にします | よく洗った指につけ、 上あご又はほおの 内側につけます | すぐに、水や湯ざまし 、ミルク(母乳) などをのませましょう | |
ゼリー状オブラート を使って (チョコ味など) | |||
市販のゼリー状 オブラートを スプーンに盛り、 上に薬をのせます | さらに上からはさむ ようにゼリーをのせ、 飲みこませます | 飲ませあとに、 水や湯ざまし、 ミルク(母乳) などをのませましょう |
3:苦い薬をのませる工夫
粉薬はできるだけ水または湯ざましで溶いてほしいものですが、どうしても嫌がるときは、ミルク、アイスクリーム、プリンなどお子さんの好きなものに溶かしたり、混ぜてのませませてもかまいません。飲んだらすぐにお茶やミルクを飲ませて、口内に薬が残らないようにしてください。
※薬効上、混ぜるとダメな場合はお知らせします。
※一般的な西洋薬の抗生物質で特に苦いとされている物は胃酸でコーティングが外れて薬効成分が滲み出る仕組みになっている事が多く、酸性の食品(オレンジジュース、ヨーグルトetc)に混ぜると苦い薬効成分が早く滲み出てしまい、余計に不味くなる事があります。
普段から、どの系統の味が好みかで判断し、混ぜる場合は、少量に混ぜて、味も確かめてみてください。多量のジュースに溶かして、まずいジュースを飲み残しては意味がありません。
薬を多量のミルクと混ぜると、ミルクの味が変わり、ミルク嫌いになったりすることがあります。ミルクと混ぜる場合は、極少量と混ぜ、飲んだ後は、普通量のミルクを飲ませて、普段のミルクと薬を混ぜたミルクは、違うという事は、解らせておく必要があります。
4:飲まない理由
6-7ヶ月くらいまでは、特に何も考えず飲んでくれる事が多いですし、多少無理やり飲ませても、覚えていない事が多いのですが、1歳~2歳は、記憶力もしっかりしていますから、無理やり飲ませると、2歳を越えても薬というものを故意に嫌がる子どもになる場合があります。また、アイスクリームなどに混ぜてごまかしていても、それを見抜いて嫌がる場合があります。
薬を嫌がる理由は・・・
- まずいから(苦くなくても、フルーツ味を嫌う、酸味を嫌うなど子ども個々に独特です)
- 強制的に飲ませようとする親の姿勢に反抗して
- 病気でしんどいから(普段より心の耐性が低下しています)
- 飲む事の理由がわからないから
- 親自身が薬を飲むことを否定的に考えている場合、子供も同様に考えます。
といった理由が混ざり合っています。
これらの理由から考えた攻略法は、これら理由全てに多面的に取り組む方法です。
5:多面的攻略法
1:味の調整
出来るだけ苦味の少ない、子どもの好みに合った味の薬を医師と相談しつつ、苦味を感じにくいものと混ぜて与える。
アイスクリームやチョコは苦味を感じにくい食べ物の一つですが、1歳半を越えてきますと、薬を混ぜていないアイスクリームの味を覚えているため、薬を混ぜたアイスクリームを嫌がる場合があります。
アイスクリームやゼリー状オブラート【おくすり飲めたね:チョコ味(苦い薬、チョコ好きの場合)】などで服用させる場合、その系統のお菓子(アイスクリームやゼリー状のお菓子:ウイダーインゼリーetc)を普段から食べさせないようにしておいて、『病気のときだけ特別に薬とともに食べられる物』という印象をつくっておけば、薬を混ぜて味が変わっても気づかれにくいです。
料理の世界でもおなじみですが、苦みを消す作用があるのは、タンパク質です。よって、ミルク、ココアミルク、味噌汁(合わせ味噌)などは、苦みが消えます。
特に、漢方薬では、ココアミルク、合わせ味噌汁、カレースープは苦みが消えます。ただし、カレースープは、毎日出せませんから、ココアミルクか、味噌汁という事になります。味噌汁って意外でしょう?私も半信半疑でしたが、漢方薬を白みそ、赤みそ、[[合わせ味噌>https://food-drink.pintoru.com/miso/how-to-make-mix-miso/]で実験したら、合わせ味噌が一番よかったです。匂いは多少ありますが、苦みはかなり消せます。
考えてみてください、あの苦いシジミが合わせ味噌だと、おいしいんですよ?それだけ、シジミ汁のレシピには苦みを消す作用があるのです。ただし、これは、熱に強い漢方薬だから出来る方法で、西洋薬では、あまりお勧めしていません。
※カレースープはほぼ完全に漢方の味を消し去ります。(そもそも、ウコンなどが入っているので、カレー自体が漢方薬ですので)
※但し、胃腸炎を伴っている時は、カレースープや、ミルクは腸に負担をかけるので適しません。
服用直後は水分を飲ませて、口内に薬剤を残さないようにしましょう。
2:褒める、楽しい雰囲気を作り、しんどさを忘れさせる
こどものしんどさを見極めて、『○○のお薬飲む人手をあげて~。』『ハーイ』などと楽しい雰囲気を作ってみても良いかもしれません。
少しでも飲めたら、または、無理やり飲ませてしまった後は、大げさに褒めてあげたり、好きなビデオなどを見せてあげたりして、しんどさや嫌な気持ちを忘れさせてあげましょう。
年長さんになってきて、薬を少しだけ飲んだら「ハイ、飲んだから○○ちょーだい!」などという駆け引きをしてくる場合は、「ちょっとだけ飲んだから、ちょっとだけビデオ見せてあげる」などと、子どもと親で折半して飲む量を増やしていってください。
3:好きなキャラクターを利用する。
キャラクターに興味を持ってくるのは、10ヶ月~1歳くらいからです。
シールを薬袋に貼って、「アンパンマンの薬飲もうね」など。
薬袋に絵を描いてあげても良いです。
4:薬の擬人化 および 利他的動機付け
2.5~3歳対象ですが、薬を水で練ってペースト状にしてスプーンですくったら、それに適当な名前を付けます。たとえば、薬の名前がワイドシリンなら、ワイド君など。
- ママの声で:
『ワイド君は、○○ちゃんの病気を治す薬君です。これから○○ちゃんのお口の中に入って病気と闘います!それ!』 - ワイド君の声で:
『あ-あれ、れ?○○ちゃんは口をあけてくれないぞ?こまったなあ、これじゃあ病気をなおせないよ。』 - ワイド君の声で:
『○○ちゃんお願いだよ~お口を開けてパックンして欲しいよー』 - ママの声で:
『エーンエーンって、ワイド君が泣いてるよ』
などと、ワイド君が可哀そうになるようなシチュエーションを作って、同情心をあおります。
もちろん、飲んでくれたら、ワイド君の声でお礼を言いましょう。
でもって、ママの声で:『○○ちゃんって、優しいね~』と二重に褒めましょう。
※)薬を擬人化し、”お薬君が困っているので、人肌脱いでやる” という気持ちを誘う方法で、これを専門用語では利他的動機付けと言います。
5:普段からポジティブルールによるしつけを多く行っておく
1歳を越えたら、理由をわかりやすく伝えて、褒めて、子どもを誘導する方法(ポジティブルール)によるしつけを多く行っておく。
- 普段叱ってばかりだったり、ダメ出しや褒めない事が多いと、母親の指示は聞かなくなってきます。病気のときだけ褒めても、うまくのってこないのです。
親が、”普段から子どもを褒める事が多い親”という存在になっていることによって、子どもは”好きな親に褒めてほしい”という欲求を強く持つように育ちます。親がそんな存在になれれば、「(自分が薬を飲まない事によって)悲しそうな顔になり、褒めてくれなくなったら嫌だなあ」と子どもに思わせることが出来るようになります。その結果、もう少し我慢して飲んでみようと子どもが行動するようになるのです。そんな時に、親が行うべきことは、子どもなりに頑張った事を認め、褒めてあげられる包容力です。結果的に飲むことが出来なかったとしても、子どもなりに頑張っている事を見抜いてあげる能力も必要になります。 - 最終的に最も大切な事は「なぜ薬を飲まなければならないのか?」を早く理解させる事と、年長さんになっても薬を嫌がる子どもにしない事です。(通常は3歳後半から理解可能となってきます。)
- 薬を飲まなければならない理由が理解できれば、”苦い薬を飲ませようとする親の行為は、自分を虐めているのではない” と理解できるようになります。
- 病気が治った時に、「お薬飲んだから直ったね」としつこく伝えておく事も効果的です。
6:ちょっとだけ同胞葛藤を利用する。
- 姉が薬を飲んだら、母や父がお姉ちゃんを褒めている所を見せる。友達が薬を飲んでいる所を見せてもらえる場合は、見せてもらう。(やりすぎると逆効果になってスネル、癇癪をおこすなどの場合がありますので、適度に)
- 同様に「飲まなかったら、○○してあげない」という方法もネガティブルールなので、ちょっとだけなら使用可ですが、やりすぎに注意しましょう。
7:どこかに諦めは持っておく。
- 1歳~2歳は飲めなくてもしょうがない、少しでも飲めれば良いというスタンスをどこかに持っておき、無理やり飲ませるという必死さが顔に出ないように気をつける。
- (1日3回が2回でも、食後すぐが、食前でも仕方ない。食後でなくてはならない薬の場合は、医師が直接説明します。)
- 飲めなかった事をあまり叱る必要はありませんが、飲んでくれなくてとても残念であるということは、必ず伝えておいてください。
- (悲しい顔をしたり、泣く真似をしたり、「すごく残念だなー」などとボヤク)
8:どうしても飲めず、他の治療に変更必要な場合を含め医師と相談する
- 両親や兄弟の感冒を早く治療しておく。インフルエンザなどでは周りの人が予防接種しておく。
- 小児用肺炎球菌ワクチンやヒブワクチン、水痘ワクチンなどの任意接種も積極的に接種しておく。
6:年齢と味覚、自我発生、服薬行動の特徴
【個人差はありますが、自分の子供がどこに位置するか、知っておきましょう。】
年齢 | 味覚 | 自我と服薬行動 |
---|---|---|
2ヶ月 | 大雑把に発達。 苦い薬を顕著に嫌う傾向は鈍い |
・自我は出ていません。 ・ただなんとなく、食べて、寝て、の繰り返しです。 ・苦いと口の中から出すという行為が出来始めます。 |
4ヶ月 | ほとんどの味覚は感じます。 酸味やフルーツ味を嫌う傾向があります。 純粋な甘みや、イチゴ味は好む傾向があります。 |
・自我が目覚めています。 ・薬を飲む理由は理解できません。 ・無理やり飲ませても、すぐ忘れてしまいます。 |
10ヶ月 | 完全な味覚 酸味を嫌う傾向は残ります。 |
・薬を飲む理由は、なんとなく、親の雰囲気から察しています。 ・無理やり飲ませると、その行為を覚えています。 ・薬を食品に混ぜ込む動作には気付きません。 |
1歳半 | 軽い酸味は飲めるようになります。 チョコ味を好み始めます。 |
・薬を飲む理由は女児なら言葉で理解し始めます。 男児はジェスチャーも交えて伝えてください。 ただし、まだまだ理由がわかっても、飲んでくれませんので、 褒めて褒めて下さい。 ・薬を食品に混ぜ込む動作に気付きやすくなります。 |
2歳 | ・男児も言葉で飲む理由を理解し始めます。 ただし、まだ理由がわかっても飲んでくれませんので、 褒めて褒めてください。 |
|
3歳 | ・理由がわかり、多少不味くてもがんばろうという姿勢が出始めます。 |