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生馬医院小児科は、2007年から、開業医による発達障害診療を開始しており、主にADHDの薬物療法とペアレントトレーニングを主な指導として開始し、現在は学習障害の診断まで広がってきていますが、中でも自閉症の診断希望は悩みの種でもありました。
(自閉症も、重度~極軽度まで、その幅は様々ですが、ここでは中等度以上の自閉症を対象にした話をします。最も頻度の多い軽度自閉症~アスペルガーと言われる自閉症スペクトラム症は省きます)
その主な理由は以下のものがあります。
- 自閉症治療は早期発見、早期療育が効果的(できれば2歳未満)
- しかし、早期の診断方法が普及していない。
- 療育開始まで1年待ち状態である
- 理想を追求すると人件費が高額となる
- 乏しい保険適応範囲内
よって、早期発見しても、効果的な療育を受ける事が出来ず、診断された母親が途方に暮れるだけの状態が続く事があります。
早期発見の問題
診断方法の問題
度々講演会でも述べていますが、自閉症という診断は、DSM-5という精神科マニュアルの範囲内で、医師が、各々の臨牀経験に基づいて、診断します。その診断方法には、医師の個人差がどうしてもあるため、医師によって、自閉症であったり、そうでなかったりという事も存在してきます。その偏りを減らす目的で、標準化された自閉症の検査方法というのが存在しますが、最も普及しているのはCARSというキットですが、これも、アメリカでは既にCARS2という新しいものが発売されて7年以上経過していますが、日本では未だ発売に至っていません。旧式のCARSでは3歳以降しか対応しておらず、早期発見には使えません。
2016年10月に発売されたADOS2は1.5歳からに対応していますが、手技に時間がかかり、(55万円と高価でもあり)普及に時間がかかりそうです。
よって、現時点では、我々医師の経験で診断する事が重要となってきます。
診断受け入れ側の問題
次に、1.5歳の時点で、診断される側の立場になって考えてみます。通常1.5歳児を初めて育てる親(最近は一人っ子も多い)は、その異常さに気づくことはほぼ不可能でしょう。保育園ならある程度気づく事は出来ますし、1.5歳健診でも気づく事は出来ます。しかし、わが子の異常さを指摘されたら、最初に出てくるのは、多くは怒りの感情が多いです。「うちの子が異常だと言うのですか!」「あなたがちょっと見ただけでうちの子のすべてがわかるはずがないでしょう!」など。
これに対して強く診断を通すために必要な要件は
- 診断の確実性
- 早期療育の提供体制
であるわけですが、この2つが不十分な状態であるわけです。
効果的な療育方法の問題
DSM-5でも規定されているとおり、自閉症の中核症状は、
- 情緒的な相互関係の障害(距離感、共感性の共有)
- 非言語コミュニケーション障害(ジェスチャーがわからない)
- 年齢相応の対人関係が持てない
であります。これらは、親子・親密な人との関係性から発達が促されます。
よく、作業療法や言語療法が自閉症の療育として患者様から語られる事がありますが、作業療法は、日常運動の障害に対して行われる治療で、おもに、自閉症の合併症である、発達性協調運動障害に対して行われるもので、直接的な自閉症治療法ではありません。
言語療法も同じて、対人関係の延長線上に言語が現れるわけですから、対人関係そのものの治療法ではありませんし、構音障害治療も自閉症には関係ありません。
高額な人件費
最新の自閉症療育に関する研究では、2歳以下からの療育開始が効果的であることが示されていますが、最も一般的なABA(応用行動分析)と言われる指導法であるESDM(Early Start Denver Model)では、改善度に差を出すためには1週あたり25時間以上の専門的関わりが必要で時給1300円の作業療法士や心理士の関わりとして計算すると、13万/月の人件費がかかりますが、保険で行われる作業療法(障害児リハビリテーション料)は1単位20分、月13単位までが限度ですから、保険適応範囲内では6万/月までと少額で、とても効果は望めません。
それを打開するために、家庭内療育、保育園で保育士が療育という方法が検討されており、そこに目をつけられたのが、JASPERという療育方法ですが、それに関しては、また機会があれば、解説したいと思います。
生馬医院のとりくみ
早期診断
両親が診断を希望される場合
3歳未満で御両親が病気の存在に気づけるかどうかは別として、御両親の診断希望があった場合は、副院長(小山博史)の経験から、診断します。(医師の経験による診断に不満があり、標準化された詳細診断を熱望する場合は、最終的にはADOS2による診断も考慮していこうと思います。(現在はADOS2は導入していません))
両親が診断を希望されない場合
これは、とても複雑で、現時点では、病気の存在は伝えず、酷い場合に限り、健診を受けたかどうか、問い、受けていない場合は受ける様促すという方針にしています。
感冒や検診などで異常児を見かけた時、積極的にその存在を医院側から伝えられるかどうかは、とても難しい問題です。1.5歳健診に行けば普通は経過観察として、フォローされることが多いわけですから、強いて、わが子を自閉症と思っていない人に向かって、当院の外来で、「自閉症の疑いがあるよ」と言っても、そのあとの長い話(自然経過や療育方法の話)を時間の都合上できないのであれば、伝えるだけトラブルの元となる可能性が高いです。
ただこの事を自閉症児を持つお母さまに申し上げたところ、憎まれても良いから伝えるべきですと言われてしまいました。
早期療育
現時点では3歳以降は、和歌山市保健センターから療育園へ紹介してもらう方向で良いと思いますが、それまでに診断した場合や、療育園への待機日数が長い方、療育園に行きたくないという方に対して、つくし療育センターの紀平先生とともに、アスペ・エルデの会で学ばせていただいている、今最も新しい家庭療育方法、JASPERに(名古屋の白木先生のところで学ばせていただいた)RDIの考え方を付け足した方法を母親に指導していきます。効果的な自閉症療育で人件費をかけない方法としては、この方法しか今のところないのではないかと思います。
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