腸チフス
分布
米国人旅行者における腸チフスの発生率は,比較的低い(旅行者100万人あたり58~ 174人)ですが,米国で報告された症例の62%が海外旅行中に発症したものであります。
メキシコ,ペルー,インド,パキスタン,チリは感染のリスクが特に高いようです。サハラ以南のアフリカや東南アジアも,腸チフスのリスクの高い地域と考えられます。
インドネシアにおける2010年の発生率調査によると、人口10万人あたりの発生率は、2~4歳は148.7人、5-15歳は180.3人、16歳以上は51.2人と、幼児に罹患者が多くなっています。これは、低年齢ほど腸内細菌が発達しておらず、病原菌の侵入を防ぎきれないからと考えられます。
世界中で使用されるフルオロキノロンなど,消化管感染症の治療によく用いられる抗菌薬に対して耐性である,多剤耐性のチフス菌(Salmonellatyphi)の出現により,旅行者が腸チフスに感染するリスクはさらに高まっており、ワクチンによる事前の予防が勧められます。
A型肝炎流行地域とほぼ同じなので、腸チフスワクチンは通常、A型肝炎ワクチンとセットで接種するのが一般的です。
感染様式
腸チフスはサルモネラ属のチフス菌による感染症です。口から移る病気ですが、腸の症状である下痢はあまりみられません。菌が腸に入った後、血液中に侵入するのが特徴です。
(英語ではTyphoid fever、フランス語ではfièvre typhoïde(チフス熱)と書きますので、腸と言う文字が入っていません。そういうつもりの目で患者を診ないと間違います。)
感染したヒトの便や尿に汚染された水、氷、食べものを取ることによって感染します。
汚染されたものに接触したハエが接触した食物からの感染など、ごく少量の菌によって感染することもあります。宿主特異性があり、ヒトにのみ感染し病気を起こします。
症状
通常10~14 日の潜伏期の後に発熱で発症します。病名に「腸」という文字がついていますが、下痢、嘔吐といった症状は少なく、最初の症状は、主に発熱と頭痛です。
- 第1病期
- 段階的に体温が上昇し、39~40℃に達する。3 主徴である比較的徐脈、バラ疹、脾腫が出現する。
- 第2病期
- 極期であり、40℃代の稽留熱、下痢または便秘を呈する。重症な場合には意識障害も引き起こす。
- 第3病期
- 徐々に解熱し、弛張熱、腸出血をきたす。腸出血に引き続いて、2~3%の患者に腸穿孔を起こす。
- 第4病期
- 解熱し、回復に向かう。
生化学的検査では、急性期には白血球は軽度に減少し、3,000/mm3 近くまで低下する。GOT, GPT は軽度上昇する(200 IU/l 程度)。LDH も中程度に上昇し、1,000 IU/l 以上となることもある。
腸チフスワクチン
Typbar TCV
Bharat Biotech International Ltd.製のTyphoid Vi Conjugative Vaccineです。
腸チフス予防効果が90%と高く、生後6か月から接種可能ですが、45歳までしか接種できません。
(腸チフスにのみ有効です。症状の軽いパラチフスには無効です。)
現時点では、輸入ワクチンのため、日本医薬品医療機器総合機構の補償はありません。輸入会社IMMCの補償はありますが、基本は自己責任での接種となります。
接種回数
1回の接種で、3年間有効です。(追加接種間隔は3年です。)
副反応
接種部位の痛み( 30%)、 頭痛(0.6%)、微熱(20.4%)
Typhim Vi
高度に精製した腸チフスのVi爽膜多糖体(ViCPS)ワクチン【Typhim Vi:Sanofi Pasteur,S wiftwater,P A】は,初回の筋肉注射から10日後から免疫を誘導します。日本を除いて、世界100か国以上で承認されています。
2歳以上の小児・免疫不全のある旅行者にも安全に使用できます。
有効率は70%程度といわれており、ワクチンを接種しても、旅先での衛生面の注意は必要です。(腸チフスにのみ有効です。症状の軽いパラチフスには無効です。)
現時点では、輸入ワクチンのため、日本医薬品医療機器総合機構の補償はありません。輸入会社IMMCの補償はありますが、基本は自己責任での接種となります。
接種回数
1回の接種で、3年間有効です。(追加接種間隔は3年です。)
主な副反応
接種部位の痛み( 41.2%)、 頭痛(9%)、微熱(5.9%)
本邦における腸チフスワクチンの安全性と有効性
IASR, (Vol. 30 p. 96-97: 2009年4月号)