さて、インフルエンザ予防接種シーズンが近づいてきましたが、今年度のインフルエンザはどうなるのでしょうか。
近年のインフルエンザ事情
ここ2年ほど、インフルエンザの流行シーズンは、開始が9月頃と例年より3か月ほど早まり、終了は4月頃と、3か月程度遅く、どんどん伸びてきております。ただし、ピーク時期はほぼ同じで12月~1月ではあります。
流行するインフルエンザ株
B型は、毎年株型の変化がないため、あまり気にする必要はありません。
A型の株は下図に示す通り、H3N2型とH1H1pdm09型が交互に流行していますので、(必ずというわけではありませんが、)今年はH1N1pdm09が流行する番であろうと考えられています。ただし、例年H1N1が有意の年もH3N2が2-3割流行していますが….
シーズン | 2012-13 | 2013-14 | 2014-15 | 2015-16 | 2016-17 | 2017-18 |
---|---|---|---|---|---|---|
優位流行株 | H3N2 | H1N1pdm09 | H3N2 | H1N1pdm09 | H3N2 | ? |
全体の ワクチン効果 (VE%) |
49 | 52 | 19 | 48 | 42 | ? |
優位株に 対する効果 (VE%) |
39 | 54 | 6 | 51 | 20 | ? |
※「Seasonal Influenza Vaccine Effectiveness, 2005-2017」より引用
上図からわかるように、昨シーズン流行したH3N2型はワクチンが効きにくいタイプです。(これは、流行途中で亜型が生まれて、ワクチン株とずれが大きくなりやすく、また、ワクチン作成もしにくいタイプだからと言われています。)
一方、今年流行が推定されているH1N1型はワクチンの効果が高いタイプで、亜型といわれる型ずれが起きにくいタイプです。よって
今年のA型インフルエンザに対しては、注射型ワクチンは昨年より有効である可能性が高い
と言えます。
(※後述するフルミストは、この逆でH1N1pdm09には効果が劣る可能性が示唆されています。)
予防方法の選択
これだけ流行期間が延びてくると、ワクチンの予防効果が問題になります。一般的に成人において、注射ワクチン(不活化インフルエンザワクチン)の有効期間は4か月程度といわれていますので、全ての期間を守り切るのは、まず不可能ではないかと思われますので、まず、
- 自分は何月に一番インフルエンザに罹りたくないか?
- ピーク時はしっかり守る
- ピーク時は、感染源からできるだけ遠ざかり、マスク、うがい、手洗いなどを実施する。
という戦略がよろしいかと思います。(まあ、10月と1月に接種して長持ちさせるという戦略もあるかもしれませんが….)
受験生の場合
受験期間はだいたい1月中旬~2月中旬なので、ワクチンを2週間前の12月末までに接種終了する必要があります。
通常の接種回数は13歳以上は1回となっていますが、2回接種の方が有効である可能性がありますので、希望があれば、2回接種も実施します。1回目と2回目の間隔は、4週以上開けておく必要があるので、そうしますと、不活化ワクチンの初回接種は11月までに終えておく必要があります。(後述するフルミストを先に接種しておいて、注射ワクチンを後で行う場合は、フルミストを10月頃に接種しておくのがおすすめです。)
ご老人の場合
アメリカで発売されたFluzone High doseは、通常のワクチンの2倍の抗原量が入っており、それを接種するようになってから、ワクチンの有効率が若年者を越えている事がわかりました。
このことから、日本でも、ワクチンを2回接種する方が老人にとって良いかもしれないと考えて、文献を調べてみますと、2002年の文献ですが、日本において、各年齢層にインフルエンザワクチンを2回接種した結果が出ていまして、その結論は、
…..以上の結果から,2回接種の場合では,3歳以上ではあるが低年齢層ほど抗体反応がよく,次いで高齢者であり,最も低率であったのは20~39歳であった.また,副作用については,軽度の局所の反応(痙痛,発赤)などがみられたが,年齢間に差は認められなかった
※文献『インフルエンザワクチン2回接種によるHI抗体の年齢別上昇』より抜粋
であったそうです。ですから、国産ワクチンでも高齢者の2回接種は、(アメリカの倍量接種と同様に、)若年者より有効性の面で上回っていたという報告が存在したという事になります。(今年のワクチンの流通量が少ないので、実際接種できるかどうかは不明ですが….)
この場合も1回目と2回目の接種間隔は4週以上開ける必要があります。また、公的補助は、1回分しかもらえません。
2017-18シーズンのフルミストについて
2015-16シーズンのまとめ
注射ワクチンより有効性が高いという事で接種が広がっていったフルミストでしたが、以前のお知らせで記載したように、2015-16シーズンの調査で、アメリカでのみ、フルミストの効果が急減したため、アメリカCDCは、フルミストの接種を『推奨しない』に変更してしまいました。その大事なところだけピックアップしますと以下の表となります。
アメリカCDC | アメリカ国防省 | アメリカICICLE | イギリス公衆衛生サービス | フィンランドCDC | |
---|---|---|---|---|---|
ワクチン効果(VE) | -21% | 15% | 50% | 41.5% | 47.9% |
対象年齢 | 2-17歳 | 2-17歳 | 2-17歳 | 2-17歳 | 2-3歳 |
対象患者数 フルミスト接種者数/未接種者数 |
133/1078 | 93/338 | 101/594 | 111/514 | 8323/46119 |
研究デザイン | Test Negative case control | Test Negative case control | Test Negative case control | Test Negative case control | Cohort |
フィンランドでの大規模コホート調査では有効性がでておりますし、イギリス公衆衛生サービスの調査、当院の調査や、日本のクリニックの調査でも、有効性は出ていましたので、2016-17シーズンは接種数を絞りながらも続行いたしました。
アメリカでの動向
アメリカは2016-17シーズンはフルミストの接種を推奨しないとしてしまったため、2016-17シーズンのフルミスト効果に関する調査が出来ていないようで、今年度、新たな調査結果は今のところ公表されていません。
今後は、まとまったコントロールスタディをもう一度実施する予定のようですが、少なくとも今年度は、新たな調査はされておらず、2017-18シーズンにおいては、アメリカCDCは昨年の決定を踏襲する形で今年も『接種推奨せず』のままです。
当院は今年も接種継続します
当院としましては、昨年接種数を制限してしまったために、痛みや腕の腫れのために注射ワクチンをどうしても出来ない方や、注射ワクチンからフルミストに変更してからインフルエンザに罹患しなくなったという方々から熱烈な接種希望の要請をうけましたので、接種数は昨年の2倍程度、まで今年度は入荷を増やしております。
フルミストの効果は約1年続くと言われていますので、有効な免疫が得られた場合は、長く効果が期待できますので、前述の方以外も、注射ワクチンだけでは心もとないと思う方は、フルミストも接種するという方法も対応いたします。
今年度の接種開始は10月中旬~末くらいを見越しております。少なくとも昨年よりは大幅に早く接種できる見込みです。
なお、毎度ではありますが、フルミストは個人輸入ワクチンですので、接種後の健康被害に対する手厚い補償はありませんので、自己責任での接種をお願いいたします。
今年度の接種開始
長々と書きましたが、今年度のインフルエンザワクチン接種開始予定日は、以下を目標に準備しております。
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