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対決! フルミストvs注射ワクチン2014/15シーズンin和歌山

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2014/15シーズンインフルエンザとワクチン part2
開業医による小規模な、フルミスト VS 注射ワクチン分析
~無謀にもprospective studyをトライしてしまいましたの巻~

FlumistGirl

さて、今季のインフルエンザワクチンシーズンが到来しようとしている中、シルバーウイークで優雅な気分の皆様とは打って変わって、来院ラッシュの隙間をぬって、慌ててブログ書いてました。

結果的にはNegative studyになってしまいましたが、かなり盛りだくさんな内容で、専門外の人は読むのもつらいかもしれません。



目次

本研究の目的

日本製注射ワクチンとフルミストとの効果の違いを厳密に調査した文献が無いため、当院で調査してみようという事になったわけですが、小規模な開業医で、効果測定をして、統計的に有意差だせんのか?という疑問もあるなか、やってみよう。という事で、やってみました。

これは一種の賭けでもありましたが、注射ワクチンの非罹患率は70~50%程度と考え、フルミストの非罹患率は80-90%と見積もりました。
当院でフルミスト接種者は100人程度しかありません。しかし、通常の調査では、正確な効果判定ができませんので、注射群とフルミスト群で、ワクチン効果に影響する背景因子をすべてそろえる必要があります。そんなマッチングをしたら、当然、対照者数は減ってしまいます。せいぜい50人対50人くらいになるので、これで検出率80%近い検定が出来るためには、フルミストの非罹患率が80-85%、注射ワクチンの非罹患率が53.5~60%程度である必要があります。

正直だいたいそんなもんだろうと舐めてました。

他院の先行調査結果

まずは、他院が実施した、フルミストと注射ワクチンの有効性に関する検討結果を示します。これは、2015年、仙台で行われた日本外来小児科学会全国大会での発表内容です。

演題28:インフルエンザ感染症に対する経鼻生ワクチンの効果

医療法人社団OCFC会大川こども&内科クリニック

【方法】当院外来にて、インフルエンザ不活化ワクチンを行った161 名(不活化群:年齢2~49才。平均14.1才)とFluMistを接種した96名(FluMist群:年齢2~49才。平均16.1才)の2014-15シーズン(2014年12月から2015年4月)のインフルエンザ感染症の発症状況について追跡した。

【結果】インフルエンザA型発症不活化群161名中19名11.8%、FluMist群96名中11名11.5%であり、インフルエンザB型発症不活化群161名中2
名1.2%、FluMist群96名中O名0%であり、両群予防率に差はなかった(Fisher正確検定)いずれの型、群で、も発症患者に、脳炎、肺炎など重症化はなかった。

【考察】FluMistの有効率は、これまで、の報告と大差はなかったが、不活化ワクチンの有効率が予想よりも高く、両群の予防率に差はなかった。

【結論】インフルエンザ発症予防対策として、不活化ワクチンとFluMistでは予防率に差はなかった。

当院の考察

実際、仙台に聞きに行っていないので、この抄録だけでの考察ですから、不適当な論評もあると思いますが、ご了承いただきまして、

この調査規模でBに対する判定は苦しいと思うので、省きます。後述しますが、この調査ではワクチン有効率は出せません、非罹患率です。今回、当院もA型に対する効果をしらべていますので、上記報告で問題となりそうなところは

  1. retrospective(後方視的調査である)
  2. 男女の数が揃っているかどうか
    基本、女は病気に強いです
  3. インフルエンザ既往歴が揃っているかどうか
    既往歴ある人の方が、ワクチン効果が高くなります。
  4. 集団生活の有無が揃っているかどうか
    集団生活者は罹患リスクが高くなります。
  5. 年齢分布が揃っているかどうか
    3歳~12歳はワクチン効果が高くなります。
    などがあります。これらの要因を揃えないと、微妙な差が出てきません。

当院での調査

今回、当院が行った調査は上記の背景因子を ぴた~っ と合わせたprospective clinical study(前方視調査)です。しかし、当院ならではの問題が露呈することとなってしまいました。

調査方法 (prospective clinical study)

当院では通常、フルミストは10月に接種し、注射ワクチンは10月後半から接種する方が増加します。
そこで、
2014/15シーズンに当院にフルミストを接種しに来た方全員に以下の背景因子についてアンケートを実施し、ストックします。

  1. インフルエンザ罹患暦有無
  2. 性別
  3. 以前のワクチン歴
  4. 昨年のワクチン歴
  5. インフルエンザ既往
  6. インフルエンザA既往
  7. インフルエンザB既往
  8. 昨シーズン既往
  9. 昨シーズンA既往
  10. 昨シーズンB既往
  11. 集団生活の種類

これと同じアンケートを注射ワクチン接種者にも行い、マッチングしました。(非ランダム化比較試験NRCTです)
その結果が以下の図となります。

マッチさせた部分 Fisher検定
フルミスト群 注射群 p値 注射回数内訳
接種者背景因子 1回接種 2回接種
23 28 0.428 16 12
27 22 17 5
50 50 33 17
以前のワクチン歴有 47 48 1 32 16
昨年のワクチン歴有 46 45 1 29 16
インフルエンザ既往有 25 25 1 18 7
インフルエンザA既往有 17 20 0.727 13 7
インフルエンザB既往有 11 9 6 3
昨シーズン既往有 5 3 0.715 2 1
昨シーズンA既往有 4 2 1 2 0
昨シーズンB既往有 2 2 1 1
保育園 31 30 1 21 9
学校 13 14 10 4
集団生活なし 6 6 2 4

この全背景因子は、各年齢層でほぼ完ぺきにマッチさせています。
ちなみに、感染者はすべて最終接種後1ヵ月以降~4か月未満までの罹患でした。

ある点を除いては、ドンピシャでマッチしているのです。

ある点とは?
注射の接種回数が2回接種でそろえられなかったという1点

何故か!?それは、『このシーズンの注射ワクチン、特にA型インフルエンザ株は前年とほとんど変更が無かったため、毎年接種している人は1回で良いですよ』と皆様にアナウンスしてしまっていたからです。悲しいかな、正直な副院長の性格が仇となったようです。

という事で、今回の分析は、

フルミスト vs 注射ワクチン1回接種

として扱う必要がある事になりました。

しかし、ここで、注意しておく事は、今年1回注射群の中で昨年もワクチンを接種した人は88%も存在しているという事です。つまり、注射ワクチン1回接種の人も、実質2回接種に近いかもしれないという事です。(なぜなら、Aワクチン株が2年連続で同じであったからです。)※ちなみに、前回のブログPart1で実施したTest Negative Studyでは今季1回接種者の69%が昨年接種歴ありでしたので、19%違いがあります。

CDC Recommendation 2014/15

アメリカAAPは、そのRecommendationの中で、昨シーズン(2013/14)1回以上接種している6ヵ月~8歳までの児は、今シーズン(2014/15)は1回接種で良いとしています。これは、昨シーズンの免疫記憶があるので、1回接種と2回接種の効果に差が少ないからと言えます。

年齢分布

年齢分布2
年齢分布1

注射ワクチン(IIV3)とフルミスト(LAIV)との各年齢層における接種者数は、左図のごとく全く同じになっています。

注射ワクチンの接種回数の各年齢層における接種者数は右図のごとくになっています。

このマッチングを行った方々に、2015年9月に電話し、罹患暦を聴取するとともに、研究調査発表についての承諾を得ました。

結果

上記のごとく、マッチさせたペアが、実際にインフルエンザに罹患したかどうかを2015年9月に電話で確認しました。

A型罹患 フルミスト群 注射群 Fisher検定 1回接種 2回接種
なし 44 39 p=0.2869
OR=2.05
25 14
あり 6 11 8 3
非罹患率 88% 78% 75.7% 82.3%

フルミストの非罹患率は88%で、注射群は全体で78%でした。(1回接種群は75.7%, 2回接種群は82.3%)

今回のstudyはフルミストと注射ワクチンの比較だけの試験ですので、それぞれのワクチンが、未接種者と比べ、有効であったかどうかの検定は行っていません。つまり、これだけだと、どのワクチンも実は無効であったという事も否定できません。そこで、先のブログで紹介しました、Test negative studyが生きてきます。あのstudyでは、注射1回群の効果は77.9%で、2回接種では90.4%で、いずれも未接種者と比べ優位にインフルエンザを予防していたことが証明されましたので、今回のcase control studyの注射群の効果は、同様に(未接種者と比べ)予防に有効であったと言えますので、フルミストも同様に有効であったと言えると思います。

悲しいかな、有意差は出せませんでした。フルミストの方が非罹患率が高く、無効者は注射ワクチンの半分しかいませんが、注射ワクチンの非罹患率が想定以上に高かったため、この比率で有意差を出すには調査人数が265人必要であったという計算が成り立ちます。つまり、当院の接種者数では違いを証明する事が無理ということになります。

また、二回接種の非罹患率とフルミスト非罹患率がほぼ同じ事から、二回接種でマッチできたとしても、2014/15シーズンの場合は、効果に統計的有意差を見出す事は極めて難しいだろうと想像します。

先に行ったtest negative studyでは、1回接種者と2回接種者の非罹患率の違いが13%でしたが、今回のClinical Studyでは6.6%しかありませんでした。
(TNS同様、1回接種と2回接種に有意差は出せてませんが、オッズ比は、TNSでは0.5したが、CSでは0.7でした。)
これは、CSにおいて1回接種者中の昨年接種歴ありの割合の違いがやや多かった事と関連しているかもしれませんが、今回の規模ではそれらが罹患率に影響を及ぼしているとは統計的に証明できませんでした。

考察

インフルエンザワクチン、鼻と注射、一体どっちがええねん?という疑問に対して、様々な英語の論文が出ており、おおかたは、小児において、フルミスト圧倒的という内容ではありました。しかし、最近、あながち常にフルミストが圧倒的優勢とは限らないという声明をACIPが、出しまして、8歳未満の推奨ワクチンをフルミスト単独であったのを、注射ワクチンも推奨するに変更となりました。

 Updated information for the 2015–16 season includes 1) antigenic composition of U.S. seasonal influenza vaccines; 2) information on influenza vaccine products expected to be available for the 2015–16 season; 3) an updated algorithm for determining the appropriate number of doses for children aged 6 months through 8 years; and 4) recommendations for the use of live attenuated influenza vaccine (LAIV) and inactivated influenza vaccine (IIV) when either is available, including removal of the 2014–15 preferential recommendation for LAIV for healthy children aged 2 through 8 years. Information regarding topics related to influenza vaccination that are not addressed in this report is available in the 2013 ACIP seasonal influenza recommendations (2).

そもそも、アメリカの注射ワクチンは日本と違い、

  1. アジュバントが入っている
  2. 筋肉注射である
  3. Velo細胞培養による製造のため、型ズレを起こさない

ので、日本製より効果が高いため、そんなことがあってもいいかもしれません。
しかし、日本製注射ワクチンとの違いを証明した報告は今の所ありません。小規模な開業医で、効果測定をして、統計的に有意差だせんのか?という疑問もあるなか、やってみよう。という事で、やってみましたが、今季、予想以上に注射ワクチンが健闘してしまい、100人規模の検定で有意差を出す事が出来ませんでした。

先の醫亊新報で菅谷先生が発言しておられた、『(フルミストは)今シーズン(14/15年)のA香港型インフルエンザ(H3N2)流行にも効果が見られなかった。』という内容は今回の当院の調査や、大川こども&内科クリニックの調査で否定されましたが、これは、日本で流行した株がアメリカのものと、若干違ったからかもしれません。

しかし、前回のブログにも書きましたが、巷で流行したA/H3亜型の78%がワクチン耐性株であったにも関わらず、ここまで両ワクチンが有効であった原因は今の所不明です。和歌山の流行株が違ったからかというと、先に紹介した論文の医院所在地は、東京都大田区であり、同様の傾向でした。

本調査結果から、コストパフォーマンスという観点から考えると、2014/15シーズンは、圧倒的に注射ワクチンの1回接種が勝っていたといえると思います。しかし、注射型不活化ワクチンは、3-4年毎に、かなり効果の落ちる年があり、そういう年の効果調査を行っていく事で、フルミストの真の価値が分かってくると考えられます。

現在、フルミストが日本で認可され、来年には全ての医療施設で利用可能となると思われます。そうなれば、先のブログで紹介したTestNegtaiveStudyによって、両ワクチンの毎年の勝負が見られることとなるでしょう。

また、不活化ポリオワクチンや、4価結合型髄膜炎菌ワクチンのように、認可された途端、ワクチン原価が2倍近くに跳ね上がるようでは、注射型ワクチンが時に、今回の様に、有効な成績を収めるのであれば、高価すぎるフルミストの需要はかなり低くなると思われ、製薬会社においては、効果を鑑みた市場調査をしっかりと行った上での価格設定を強く願うものであります。

そういった意味で、今回の当院と大川こども&内科クリニックの調査結果が、フルミストの価格高騰に対する牽制となれば、幸です。

まとめ

  1. TestNegativeStudyとprospective clinical studyの二本立てを同年に行う事により、フルミスト、注射ワクチン両者の有効性を証明できた。
  2. 若年者において、日本の不活化注射型(皮下注)ワクチンもフルミストと同等の効果を表す時もある事がわかった。
  3. 菅谷先生の言うような”フルミスト無効”という事はなかった。
  4. フルミスト認可後、毎年の効果勝負がTest Negative Studyによって公表されるだろう。
  5. 不活化ワクチン健闘の如何によっては、フルミストの価格設定に影響を及ぼす事になるかもしれない。

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