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いよいよ、再来年から日本で認可される予定のフルミスト(経鼻噴霧式インフルエンザ生ワクチン)ですが、最近その効果について、やや雲行きが怪しくなるような情報が出てきました。
3年前から、アメリカCDCにおける、インフルエンザワクチンサーベイランスで、フルミストの効果が徐々に低下してきており、今年度、フルミストは、注射ワクチンと比べ、無効であったと報告し、初めてフルミスト接種を『推奨しない』に変更されたことから、多くの日本のクリニックで、今年度のフルミスト接種が突然中止される事態となっています。
また、日本の研究者の調査で、フルミスト中に含まれるインフルエンザウイルス量が、medimmune社が公表している数値の1/10しかなかったという報告もあり、その品質の問題も注目されるようになりました。
しかし、当院の過去のフルミスト効果に関する調査や、他のクリニック、他国での調査からわかった事は
- 国産ワクチンも2回接種すれば、効果があった。
- その国産不活化ワクチンと比べ、フルミストは劣る事はなかった
- フィンランドのCDCは、フルミストは有効であると報じている
- イギリスのCDCも同様に有効であることを報じており、その差は圧倒的であった。
- カナダにおける2012~15年シーズン調査では、不活化もフルミストも同程度の有効性であった
- 当院で注射からフルミストに切り替えてからまったく罹患しなくなったため、熱望するリピーターがいる
などの事を鑑み、
当院としましては、今年のフルミスト接種は、普段の1/3の量に制限しつつも、
接種を続行する予定です。
※)尚、入荷は10月中旬頃と大幅に遅れる予定です。
※)2015-16シーズンにおける各組織、集計方法別、フルミスト効果の違い一覧
なぜアメリカCDCだけが無効であったと報じたのか?
では、なぜ、他国では有効と判断されているフルミストの効果が、突然、アメリカだけ無効となってしまったのでしょうか?
最終的にその原因は未だ不明のままですが、とても気になるニュースが2012年のアメリカABCニュース記事に出ています。
これは、アメリカのワクチン接種クリニックの70%が、ワクチン保存温度が不適切であったという報道です。(多くのクリニックの保存温度が低すぎ、中には凍結しているものが紹介されています。)
フルミストを含め、生ワクチンは、温度と使用期限が極めて厳しく設定されており、摂氏1~5℃の範囲が推奨されています。これ以下でも以上でもワクチン中のウイルスは失活していきます。通常の冷凍庫付き家庭用冷蔵庫では、自動霜取り機能の際、この温度を大きく越えてしまう事があるため、当院では、業務用冷蔵専用冷蔵庫で設定温度4度に設定し、霜取りなしの設定で、かつ、開け閉めの際に上昇する温度を干渉させるため、干渉箱に入れて保存しています。
日本の生ワクチンで一般的なワクチンは麻疹、風疹、みずぼうそう、おたふくかぜワクチンですが、これらのワクチンも同様の温度で保存が推奨されています。しかし、そもそも、これらのウイルス感染症は発生数が著しく減少しており、万一ワクチンが失活していても、感染者数が増加することが少ないため、なかなか医師が気づく事ができません。
一方、インフルエンザは毎年多くの人間が感染するため、そのワクチンが失活している場合、すぐにサーベイランスで見つかることとなります。
もしかしたら、フルミストの接種が米国で一般的になるにつれて、ワクチン保存の問題が目立つようになってきたのかもしれません。
その他の考えられる原因
多種類混合生ワクチンが原因か?
3価から4価に変わったあたりからフルミストの有効性が低下してきている(アメリカ以外でもこの頃から圧倒的な有効性が、効果が同等となってきているので)事から、同種ウイルスの多種類同時接種により、互いのウイルス株の干渉作用によって、効果が落ちているのではないかという予想もされています。
しかし、アメリカでは特にH1N1に対して効果が低かった事が論じられており、なぜ、B型株を1つ入れたぐらいで、A型の効果が落ちるのか、については、納得のいく理由が見当たりません。
流行が早まったからか?
とくに有効性が疑問視された2013年あたり、アメリカではワクチン発売日より先に、H1N1の流行が発生しており、接種前に軽微な感染がみられていたためではないかという予想もされています。
たしかに、フルミスの発売日は遅すぎます。生ワクチンは他のウイルスが侵入中は、干渉作用で無効となりやすく、鼻かぜであろうと、罹患中は、ワクチンの効果が無効化されかねません。(このため、当院では、鼻炎や、軽くても、感染の徴候を認める場合は、改善するまで接種をお勧めしていませんでした。)
効果が1年つづくとされているのですから、2012年のように、9月発売が理想的です。(10月は他の鼻炎ウイルスが急増するので、接種するタイミングが減ります。)
フルミストの今後
再来年には、フルミストが日本で認可される予定で、厚労省による品質管理が厳しく徹底されたうえで発売となると考えられ、もし、発売されれば、それなりに品質は保たれていると考えますが、各クリニックでのワクチン保存温度の問題や、接種タイミングの問題は常に付きまといますので、あらためて襟を正す必要があるかと思います。
参考文献
1)森 薫 他. インフルエンザ感染症に対する経鼻生ワクチンの効果, 医療法人社団OCFC会大川こども&内科クリニック,第25回日本外来小児科学会年次集会プログラム抄録集,2015, p123【n=161】
2)幸道直樹 他. 経鼻式噴霧生インフルエンザワクチンのインフルエンザ予防効果に関する検討 – 不活化ワクチンを対照とした観察研究. 外来小児科 2016; 19(1): 88-92【n=145】
3)Seasonal childhood influenza vaccinations Experiences from Finland
5)対決! フルミストvs注射ワクチン2014/15シーズンin和歌山
7)ACIP votes down use of LAIV for 2016-2017 flu season
8)並行輸入された経鼻インフルエンザ生ワクチンに含有されるウイルスの感染価の定量
9)経鼻インフルエンザ生ワクチンの接種は一時中止すべき
2017-18シーズンのインフルエンザワクチンについて
2017-18シーズンの考え方については、以下のリンクをお読みください。
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