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本日は岩出市にあるつくし医療・福祉センターで発達性協調運動障害(DCD)と視知覚障害について、OT,PT,ST,心理士,医師向けの講演を実施してきました。
土曜日の夕方、仕事が終わって一旦帰宅したにもかかわらず、わざわざ院長先生はじめ25名ほどの参加を頂きました。
1時間にこの2つの話題はかなり濃い内容だったようで、もう少し時間をかけて、ゆっくり話すべき内容だったかもしれません。
DCDと視知覚認知は、すべての発達障害と障害部位が重なるため、非常に重要な部分である事が伝われば、幸です。
いただいた疑問点について、分かる範囲でお答えしてまいりました。質問の一部をピックアップしますと、
DCDで乳児期に筋緊張低下や吐乳といった症状が認められるのはなぜか?
厳しい質問です。因子分析によって、そういった症状が認められるという事が分かっているだけで、そのメカニズムとしては、未だ解明には至っていません。小脳からの持続パルス信号が出ていないために筋肉の持続収縮ができないという事と、筋緊張低下が関係あるのかもしれません。
吐乳する理由もわかっていません。噴門部の筋トーヌスの問題なのかもしれませんが、立証されていません。乳児期の胃食道逆流現象にミルクアレルギーが関係するという説がありますが、吐乳に対して、たしかに、アレルギーミルクを飲ませると逆流が改善するのですが、これには、ミルクアレルギーを回避できるからという理由以外に、アレルギーミルクは消化が速いため、胃にたまらないから改善するのだという説がありまして、この後者にDCDが関係しているのかもしれません。この場合、数か月後に普通ミルクを飲ませるともう吐乳をしない事が認められます。(ミルクアレルギーの場合は、通常再現性がみられるので、再び嘔吐するのですが)
未熟児はボディイメージが確立できていないのか?
DCD学会関係者の考えは、早産児はダブルタッチが不十分で生まれてくるため、ボディシェーマが上手く発達せず、その結果、DCDの合併率が増えるという解釈をしています。よって、ボディシェーマが不完全であれば、ボディイメージも不完全であろうと推察されます。
どうしてDCDはアナログ時計がよめないのか?
おそらく、下頭頂小葉のパーツ認識部分(外線状皮質)と要素的空間認知障害による同時失認によるものと考えられますが、これも証明されたものではありません。
日常診療における書字障害への介入は?
書字能力には、以下の要素が必要です。
1:目の動き(眼球運動)
2:文字の読みには、輪郭認知
3:文字の書きには、パーツ認識と形状記憶
4:微細書字運動には、手先の動き(微細協調運動能力)
5:粗大書字運動には、体幹の動きと姿勢維持(粗大協調運動能力)
6:集中力
(※この他、事前視覚化、筆先位置推定機能も必要なんですが、この部分は介入方法がないです。)
これらについて、視知覚検査、漢字の間違い方の分析、知能検査、ソフトサインの確認、Stroop testなどを交えて判断し、それぞれの要素別にまとめて意見書を作成していきます。
今後の課題
神経心理学の急速な進歩により、発達障害と微細脳機能障害、認知症との共通部分、障害が発生する仕組みが科学的にかなり明らかになってきています。その仕組みから、対処方法が類推可能となってきました。
今後の問題は、その類推された対処方法が実際に効果的かどうかの検証を行う段階に入ってきています。
末端の方々は、『じゃあどうすれば良いのですか?』という疑問が当然出てくるのですが、その証明にはあと4段階必要です。
- 標準化された発達障害機能の測定法の普及
まだまだ国際標準の検査法が国内導入されていません。 - パイロットスタディの蓄積
検査法が導入されていないので、どうすれば効果的なのかの客観的な判定ができません。 - 大規模プラセボコントロールスタディの実施
パイロットスタディでの報告もできていないので、コントロールスタディをデザインする事もできません。 - エビデンスの成立
大規模プラセボスタディが多数出ないと、エビデンスの作成はできません。
発達の良さを個人レベルで観察するには、3-4年の経過観察が必要ですし、さらに上記の4つの段階が必要ですから、計算すると、『じゃあどうすれば良いのですか?』という疑問にこたえられるようになるのは、あと20~30年くらいかかりそうです。
当院としては、現段階の病態生理から推定される『良かれ』の方法の中で現実的な提案を親や、学校、医療機関に行っていきます。
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