近年、百日咳ワクチンが含まれている、三種混合ワクチンのスケジュールでは、小学校6年生頃に、百日咳に対する抗体価が低下し、成人が百日咳に罹患してしまい、乳児に対する感染源となってしまうという問題が発生しています。
百日咳
百日咳(pertussis, whooping cough )は、特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴とする急性気道感染症です。母親からの免疫(経胎盤移行抗体)が期待できないため、乳児期早期から罹患し、1歳以下の乳児、ことに生後6 カ月以下では死に至る危険性も高い病気です。
感染様式
グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis )の感染によるが、一部はパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis )も原因となります。感染経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染、および接触感染です。
百日咳の発症機序は未だ解明されていないらしく、百日咳菌の有する種々の生物活性物質の一部が、病原因子として発症に関与すると考えられています。病原因子と考えられるものとしては、線維状血球凝集素(FHA )、パータクチン(69KD 外膜蛋白)、凝集素(アグルチノーゲン2、3)などの定着因子と、百日咳毒素(PT)、気管上皮細胞毒素、アデニル酸シクラーゼ、易熱性皮膚壊死毒素などの毒素がある。
このうち、三種混合ワクチンに主に含まれているのは、百日咳毒素(PT)と線維状血球凝集素(FHA )成分です。多少、パータクチンや、凝集素も含まれています。
症状
- カタル期(約2週間持続):通常7~10日間程度の潜伏期を経て、普通のかぜ症状で始まり、次第に咳の回数が増えて程度も激しくなる。
- 痙咳期(約2~3週間持続):次第に特徴ある発作性けいれん性の咳(痙咳)となる。これは短い咳が連続的に起こり(スタッカート)、続いて、息を吸う時に笛の音のようなヒューという音が出る(笛声:whoop)。この様な咳嗽発作がくり返すことをレプリーゼと呼ぶ。しばしば嘔吐を伴う。
発熱はないか、あっても微熱程度である。息を詰めて咳をするため、顔面浮腫、点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などが見られることもある。
年令が小さいほど症状は非定型的であり、乳児期早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展することがある。
- 合併症としては肺炎の他、発症機序は不明であるが脳症も重要な問題で、特に乳児で注意が必要である。1992~1994年の米国での調査によると、致命率は全年齢児で0.2%、6カ月未満児で0.6%とされている。
- 回復期(2, 3 週~):激しい発作は次第に減衰し、2~3週間で認められなくなるが、その後も時折忘れた頃に発作性の咳が出る。全経過約2~3カ月で回復する。
成人の百日咳
成人の百日咳では咳が長期にわたって持続するが、典型的な発作性の咳嗽を示すことはなく、やがて回復に向かう。軽症で診断が見のがされやすいが、菌の排出があるため、ワクチン未接種の新生児・乳児に対する感染源として注意が必要である。これらの点から、成人における百日咳の予防接種の重要性が指摘されており、もうすぐ、成人専用の三種混合ワクチン(Adacel:Sanofi Pasture)が日本の認可取得に向けて準備中とされているが、それまでは、現在の三種混合ワクチンを少量接種する方法が推奨されている。
百日咳ワクチン
百日咳単独のワクチンは存在しておらず、我が国では三種混合ワクチンを使用します。
三種混合ワクチンに含まれる無菌体百日咳ワクチンは、百日咳I相菌東浜株を液体培養し、菌体に含まれる内毒素(発熱に関与する)を殆ど除去し、PTやFHAを主成分とする分画を取り出し、更に、ホルマリン添加により、PTの白血球増多活性やヒスタミン増多活性を不活化させてあります。
日本で三種混合ワクチンに用いられている百日咳ワクチンは、百日咳菌の培養上清から作成した無菌体ワクチン(コンポーネントワクチン)です。
★4コンポーネントワクチン(北里研究所、武田薬品工業、デンカ生研)
- 百日咳毒素(PT)
- 線維状赤血球凝集素(FHA)
- 69kD外膜蛋白(69kD OMP)
- 凝集原(Agglutinogen)
の4成分が、含まれています。
★3コンポーネントワクチン(阪大微研)
- 百日咳毒素(PT)
- 線維状赤血球凝集素(FHA)
- 69kD外膜蛋白(69kD OMP)
の3成分を含んでいます。
百日咳毒素(PT)の含有量は、阪大微研の3コンポーネントワクチンが最も多く、成人に対して少量接種する方法を行う場合は、阪大微研製がアメリカのTdapワクチンであるBOOSTRIXに組成が近い。