2013年から、ナツメ出版の柳沢裕子さん、office201の佐藤拓美さんとともに作成していた、当院の子育てコンテンツ『赤ちゃん』の中の赤ちゃんが泣いている理由と対策~夜泣きに関する項目の抜粋本『安眠レッスン』の書籍化が、やっと完成し、本日無事発売となりました。
当院コンテンツ『赤ちゃん』執筆のきっかけ
当HPにも書いていますが、2004年、NICUの仕事をしていた時、乳幼児虐待~殺害で両親が逮捕されるという報道が相次いで報告されていました。
その理由に『子供が泣き止まないので、ついカッとなってやってしまった』という共通のものが多く見受けられました。
最初は、それは後付けの理由に過ぎないだろうと軽く考えていましたが、NICU退院後の両親と仲良くなるにつれ、泣きやまない子供に感情的になって、つい、子供を布団に放り投げたなどという話を親から聞く機会があり、
『子供がなぜ泣くのか、どうすれば泣き止むのか』について、具体的に教えてくれる人や機会が少ない事に問題があると感じはじめました。
そんなNICUを卒業した御両親にお渡しするパンフレットの一部として最初に作成したのがきっかけです。
本書の位置づけ
そもそも、虐待をするような人は、お金を払ってまで夜泣きについての本を買わないだろう。だから、無料公開するべきだろうというスタンスで、2006年からWeb公開を開始していました。
また、夜泣きで苦しむ母親を一旦子育てから解放する必要があり、そのためにはパートナーである男性に理解しやすい書き方である必要があり、また自分が男性であったため、本HPは男目線で書かれています。(つまり、症状→原因→対策が一目でわかるような表形式で作成されています。)
しかし、ここで、以下の問題も感じていました。
- やや書き方が難しい
- Webが出来ないお母さんも多い
そもそも電子機器出来ない人や、すでに寝不足でWebも読めない状態になっており、それに見かねた祖母、祖父母から相談のメールが来る。
こういった事から、パソコンが不得意なおじいちゃん、おばあちゃん、お母さんが読んでも分かりやすい女性目線での紙媒体での提示も必要だろうという考えに至りました。
そのため、いままでもいくつかの雑誌掲載に協力してきました。
そんな中、昨年、ナツメ出版の柳沢裕子さん、office201の佐藤拓美さんから、当院のホームページの内容を書籍化したいというお願いが来ました。会社の会議で、今までの夜泣き改善のための方法で、最も効果があった内容について、皆で話した結果が、当院のHP内容だったそうです。
大変ありがたい事です。
もちろん、書籍化する場合の問題点もあります。
- 有料になる
- Updateされないため作成された時点で風化が始まる
このため、Webでのupdateは今後も続けていく所存であります。
試行錯誤
赤ちゃんが泣く理由について、我々小児科医は体系的な教育を受けていません。その頃、どうして泣くのかについて、様々な本に書かれている事をGCUの子供達や、自分の娘に試しながら、有効と考えたものを最初は記載していきました。
医者ですから、科学的に証明されているものばかり取り扱いたいと考えているのですが、そうすると、赤ちゃんの泣きに関する事はほとんど書けなくなってしまう事に気づきます。
科学的な証明はいまだ未解決
赤ちゃんの行動研究については、1970年代から欧米で活発となりましたが、主に認知能力の種類と能力の経年的変化についてがほとんどでした。
2000年頃、functional MRIや光トポグラフィを利用して成人脳機能を分析する試みが報告され始め、その頃、日本赤ちゃん学会がスタートしました。
赤ちゃんにおいては、現時点では、●●をするとどの部分の脳血流が増えているという程度の認識にとどまっています。
一方、成人においては、●●をすると、どの部分の脳血流が増え、どの部分が減り、セロトニンが増える、
など、脳アミン系に関する分析まで進んでいます。
睡眠一つとっても、成人では、ストレスを人為的に負荷しながらfMRIで測定しているのに対して、赤ちゃんでは、正常者の光トポグラフィや、異常児の体動センサーでの測定結果であり、異常児の直接的脳機能データではありません。
昔、児童心理学の師匠から、『夜泣きは、赤ちゃんのうつ病である』と聞かされた事があり、ほんとかなと思って、我が子のキツイ夜泣きに付き合っていますと、日中でも不安が強く、抑えきれずに発狂するなど、どう考えても扁桃体の過活動だろうと考えるようになってきました。
最近になって、成人への不眠ストレスを実験的に与えて扁桃体の血流が増え、うつ病と入眠障害を誘発する実験をみて、これはもう確信に至ったわけですが、それでも、まだ夜泣きをおこしている児本人での研究ではありません。
考えてみれば当然で、夜泣きで浅睡眠の児に光トポグラフィとかまず無理です。取り付けただけで泣きます。また、いまのトポグラフィでは、分解能が不十分で扁桃体だけの血流をとらえられません。
証明はもう少し先なんだろうと思います。
それでも、今なんとかしなくちゃいけない
証明されていないから、文章では説明しないというスタンスから、夜泣きに関して、医師からの出版物が少ないんだと思います。
また、書いた内容への批判も出てくるとは思います。というのも、上述のとおり、直接的科学的証明はまだ先の課題だからで、突っ込もうと思えば、突っ込めるからです。
しかし、そのために今、虐待されている子供がいるのなら、何と言われようと、今書くべきだ。そういう気持ちで書いています。
この本を読んで、一人でも多くのお母さんが夜泣きから解放され、喜んでくれる事を祈ります。
PHPからも姉妹本発売しました。
2015年11月5日にPHP研究所 教育出版部からも発売となりました。同じ様な内容なので、PHPさんに、『もう既に同様の本を出版してまだ間が無いのですが、どうしてまた書いて欲しいんですか?』と聞きましたところ、PHPは教育系雑誌会社なのでこの手の本が欲しいという事や、他著書の夜泣き本をいろいろ読んでみたが、私の本が最も詳しく書かれているという事、他の雑誌とは違い、一般書店では販売しないので、販路が違うという事から大丈夫という事で、仕事を受けました。
せっかくですから、安眠レッスンよりやや詳しく、病気の夜泣きについても加筆してみました。
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