小児科 副院長 小山博史です。
2013年、コツコツと毎週木曜日に行っていた和歌山市黒田町の飛散花粉調査結果をまとめましたので、公表いたします。
花粉の飛散距離から考えますと、黒田町のみならず、友田、吉田、太田、秋月、鳴神、有家の方は、ほぼ同様の花粉構成であろうと考えられます。
方法
観測方法
2013年2月14日~11月27日まで和歌山市黒田町の自宅ベランダにダーラム型花粉採集器を設置し、1週間ワセリン塗布スライドガラスをダーラム型花粉採集器に設置したまま放置し(1週間連続採粉)、ゲンチアナバイオレット含有グリセリンゼリーで固定し、検鏡。その花粉の種類と量を測定した。
PM2.5
和歌山市が公表しているPM2.5観測情報から、花粉観測時期に一致した1週間のデータを平均した値を採用した。観測場所は、この時期に利用可能であった3カ所(市立和歌山高校、小倉小学校、西保健センター)の平均値を採用した。
黄砂情報
和歌山では観測地点が無いため、環境省黄砂飛来情報から、大阪LIDARの定性値を0~4までの5段階として採用した。
花粉量と大気汚染と気道アレルギーの関係
PM2.5平均値は、3月初旬と11月初旬に中国由来の増加ということで、ニュースになりましたが、実は、8月が最も増加していました。(桜島噴火の影響で、二酸化硫黄が変化したものらしいです。)
気道アレルギーの指標となる、ロイコトリエン拮抗剤と吸入ステロイドの処方人数のグラフと一緒に示します。
この8月頃は、特に気道アレルギー患者数の増加はありませんでした。また、3月の中国からの汚染風時にも気道アレルギーの増加がみられておらず、PM2.5の気道アレルギーへの関与はなかったものと考えられます。11月に気道アレルギーの増加がみられていますが、これは、他の原因と考えるべきと思います。
鼻アレルギーの患者数を表す抗ヒスタミン剤とステロイド点鼻薬の処方人数の推移グラフでは、3月は患者数が例年以上に増えましたが、これは、和歌山全体の花粉量が例年にないほど多かった事が影響していると思われました。(スギ花粉との相関係数 = 0.722, 95%信頼区間 0.215-0.922, P値 = 0.0122と抗ヒスタミン剤とステロイド点鼻薬の処方人数との間に相関がみられた)
黄砂の時期はスギ花粉の時期と一致しますので、影響については、実感できませんでした。
花粉種類について
皮膚炎を表すステロイド軟膏処方患者数推移グラフと、気道アレルギーを表すロイコトリエン拮抗剤と吸入ステロイド処方患者数推移グラフを示します。
ステロイド軟こうのピークとマツ花粉の時期が一致しているように見えたので、調べてみましたが、相関係数 = 0.422, 95%信頼区間 -0.201-0.802, P値 = 0.172で、明らかな相関は見られませんでした。
ロイコトリエン拮抗剤と吸入ステロイド処方患者数のピークとブナ、マツ花粉の時期が一致しているように見えたので調べてみましたが、
- ブナ:相関係数 = -0.488, 95%信頼区間 -0.908-0.419, P値 = 0.267
- マツ:相関係数 = 0.501, 95%信頼区間 -0.103-0.835, P値 = 0.0973
と、マツが惜しくも相関なしでした。しかし、そもそも、マツ花粉の直径は60μメートルと巨大であるため、気道アレルギーとの関連はなさそうで、文献的には顔面の皮膚炎との関連が報告されています。
ただし、黒田町周辺のアレルギー患者数推移グラフでみるかぎり、スギ、ヒノキ、ブナの季節に一致して、ピークが現れており、ブナのアレルゲンとしての地位は高いものと思われました。
2月~4月初旬:スギ
異常なまでの数、数、数、もう数えるのが嫌になって、何度挫折しそうになったか(T^T)
それくらい、一面のスギでした。また、雨の時や、黄砂と混ざると破裂しやすく、破裂したスギ花粉は、もう、数えるのが大変でした。
なぜ、スギの花粉が数十キロ~数百キロも飛ぶのか?というと、
- 10-20μmという小ささ
- 春一番という強い風邪が吹き
- 乾燥しており、雨が少ない
- 山の上という高い位置から飛ばす
という数々の理由が重なる事の相乗効果なのだと知った時、スギさんって、すごいと思った次第です。
3月中旬~5月:ヒノキ
ヒノキとスギは共通抗原があるという事で、ヒノキが飛んでいる間は、スギアレルギーの人の症状は続くのかと思って観察していましたが、意外と、ヒノキ単独になってしまうと、症状は治まるという事が観察されました。おそらく、共通アレルゲンとは、違った部分に対するアレルギーを持っている人も多いという事かと考えました。
これらの2つの花粉は、おなじみの花粉達でありましたが・・・
3月末~5月末:ブナ・コナラ
この花粉が多いとは、よく知りませんでしたので、驚きでした。ブナと言われて知らない人も、どんぐりの木と、言えば、良く知っていると思います。
これらの花粉は、シラカンバや、ハンノキと共通するアレルゲン領域(PR-10蛋白)をもっているため、たとえば、血液検査でハンノキアレルギーが強くでていても、『ハンノキ?何ですかそれは?そんな木は見たことありませんが。』という人のほとんどは、ブナアレルギーなんだと思います。
この蛋白は、フルーツにも含まれており、リンゴ、桃、梨、イチゴ、メロン、キウイ、ヤマイモ、トマト、豆類、ナッツ、豆乳を飲んで口がピリピリする人は、ブナアレルギーを持っている事が多いとされています。
その他、ブナアレルギーの症状は、これらフルーツによる口腔アレルギーと、鼻炎、アレルギー咳嗽などです。
ブナの花粉は、スギとほぼ変わらない大きさではありますが、その飛散範囲は、20-30mと、スギとは比べ物にならないのですが、その理由は、季節によるもので、風邪が少なく、雨が多い時期ですので、そのために飛ばないのだと考えられました。しかし、黒田の観測地から20-30mの所には、ブナ・コナラの木はほとんどなく、なぜこんなに飛んでくるのかと考えましたが、調べた文献によると、風が強ければ、数十kmは飛びうるという事と、2013年4月~5月は、強風の時期が多かったという事も原因と思われました。
ざっと自分の足で調査してみて、黒田町周辺でのブナ、コナラの多い地域は、Google Mapでまとめてみますとこんな感じでした。もっとも近い所で、約1kmは離れていました。
日本には、ブナの原生林が多く、普通なにも手が加わっていない山の多くはブナの木だそうで、高速道路で、大阪に行く途中の山にも多数のブナと思われる花粉を目いっぱい広げた木が多数見当たりました。
4月~6月:マツ
まず、このトンボの顔によく似た花粉を見て、最初は、ちょっと気持ち悪かったです。
近くに松が多数ある事から、多く観察されました。当院の患者様で、明らかな松アレルギーはいらっしゃらないので、実際の被害と一致させることは出来ませんでしたが、夏前に、顔面の湿疹が酷くなる人にこの松アレルギーが多いと言われています。
4月~11月:イネ科
雑草~食用まで、夏はイネ科だらけであります。観測地点から6m程度の所に、田んぼがあるのですが、この食用イネは思ったほど花粉が飛ばないという事がわかりました。稲刈りの時もまったく飛びませんでした。強風が吹くか、田んぼの真横を歩く時くらいしか、問題にならないのではないかと思われました。
理由として、花粉が盛んな時期が梅雨に一致すると言う事と風が少ない時期という事が考えられます。しかし、田園以外でもイネ科の植物はそこらじゅうに存在します。黒田周辺では、
- ヤクナガイヌムギ
- コメヒシバ
- スズメノカタビラ
- エノコログサ
- イヌビエ
- コバンソウ
などが一般的で、それらの花粉は、食用イネより小さいものもあり、こっちの方が飛ぶんだろうと考えられました。
一方、我々医師が血液検査などで行うイネ科の食物は、
- ハルガヤ
- ギョウギシバ
- カモガヤ
- ヒロハウシノケグサ
- ホソムギ
- オオアワガエリ
- アシ
- ナガハグサ
- コヌカグサ
- セイバンモロコシ
- スズメノヒエ
- オオスズメノテッポウ
と、黒田町では見る事のない物ばかり。
ただ、イネ科も共通抗原があるので、検査自体は意味がありますが、関東などで有名なハルガヤ、カモガヤなどは、一つも咲いていません。そもそも、これらは、関東の牧草開拓の時(明治頃)に欧米から牧草として輸入された事に端を発するらしく、和歌山とは関係ないのだそうですが、黒沢牧場付近にはあるかもしれません。
9月~11月:キク科
周辺の発生状況から推測すると、主に、9月はアレチノギク、10月はブタクサが主な発生源と考えられます。その他、たまに見当たるのは、オオバコ、オニタビラコ、ウラジロチチコグサなどがありました。
9月:ヨモギ
夏の終わりの一瞬ですが、花粉が多数見当たりましたが、どこに咲いてあったのか、特定できませんでした。
まとめ
- 当たり前ですが、スギ花粉に関しては、鼻アレルギーを表す抗ヒスタミン剤+ステロイド点鼻薬処方人数との間に相関関係がみられた。
- PM2.5とアレルギーとの関連は今期の濃度では見られなかった。
- ブナは、鼻~気道アレルギーとの関連があり、患者数推移グラフでもピークが一致しているが、相関は出せなかった。 これは、飛散時期がヒノキと重なる事と、風の強さが飛散量に影響するためと考えられた。
- マツは皮膚炎との関連が臨床上疑われたが、相関を示す事は出来なかった。
これは、花粉直径が巨大で、数メートルしか飛ばないため、他の花粉と比べ、さらに地域の偏りが強い事が影響していると考えられる。
リンク
- 2015年黒田町花粉グラフ
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