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RSウイルスの流行が始まっています。おもったより患者数が減らないので、予定していた内職がすすみません。かなり慌てて、このシリーズ書いています。
まずは、昨シーズン(2014-15年)のインフルエンザについて簡単にまとめます。
和歌山市で流行したインフルエンザ株
図のごとく、昨年はA型H3N2型が流行し、ワクチン耐性株が78%であったと解析されています。
つまり、
2014-15年シーズンのワクチンは、主流株:A香港型ウイルスに対して、無効である可能性が78%もあった。
という事になります。
流行期間
和歌山市感染症情報センターのデータをグラフ化しています。
第11週(2015年3月入ってから)くらいからB型が優勢に変わってきていますが、流行頻度は少なく、少規模施設でB型に対するワクチン効果分析をするのには向いていない感じです。
2014/15シーズンの注射ワクチンのA型に対する効果測定
昨シーズン、当院では、地道にTest Negative Studyを行っておりました。
インフルエンザ流行期において、病院を受診した発熱患者は、ほぼインフルエンザ検査を実施されるという動向が均一であると仮定した場合、その流行期間に病院で実施したインフルエンザ抗原検査が陰性と陽性者の中で、ワクチン有無を区別して、統計解析すれば、その年のワクチン効果を近似できるという理屈だそうです。
数年前から海外で報告例が増えており、2014年から本邦でも菅谷先生主体で報告されております。
実施が簡単なので、当院でも行ってみる事にしました。B型の頻度は少なく、調査対照から外しました。
対照と方法
調査方法:
Test Negative Control study(retrospective)
調査期間:
和歌山市内定点あたりのインフルエンザ発生数が5以上~5以下になるまでの2014/12/15~2015/3/22までに当院にインフルエンザ様症状で来院した1歳~12歳の小児120人に対してインフルエンザA罹患に対する注射ワクチンの効果を判定しました。
この期間において和歌山市で認められたのはH3N2型のみでした。
※この調査期間の設定が大変重要で、先のブログでも説明しましたが、ベイズの定理によって、流行していない時期を調査期間に入れてしまうと、検査キットの陽性的中率が低下するため、ワクチン効果を過剰に評価してしまう可能性があります。
統計手法
多重ロジスティック回帰で集計
調整因子:過去の罹患暦、昨年の罹患暦、昨シーズンのワクチン歴、集団生活の有無、年齢、接種回数を入れてみました。
※『N=100程度でロジスティック解析使うか!?~』と嫁に指摘されましたが、理論上、10変数まで使えますので、6変数くらいなら良いやないか!って言う事で、やってやりました!
結果
素人向けにわかりやすく言いますと、昨シーズンの注射ワクチンはメッチャ効いてたという結果が出ました。
未接種 | 1回接種 | 2回接種 | |
---|---|---|---|
A陰性 | 4(6.9%) | 8(22.2%) | 9(36%) |
A陽性 | 54(93.1%) | 28(77.7%) | 16(64%) |
★年齢別
A罹患 | |||
---|---|---|---|
年齢 | 接種回数 | あり | なし |
1~2歳 | 0回 | 6 | 0(0%) |
1回 | 2 | 0(0%) | |
2回 | 2 | 0(0%) | |
3~5歳 | 0回 | 14 | 2(12.5%) |
1回 | 8 | 4(33%) | |
2回 | 6 | 8(57%) | |
6~12歳 | 0回 | 38 | 2(5%) |
1回 | 18 | 4(18%) | |
2回 | 8 | 1(11%) |
3~5歳のグループが良く効いている。
★昨年接種歴と今季接種回数の関係
今季接種回数 | 0回 | 1回 | 2回 |
昨年接種歴なし | 45 | 11 | 5 |
昨年接種歴あり | 13 | 25(69%) | 20 |
今季ワクチン1回接種の人の69%が昨年も接種していた。
解析結果
オッズ比(OR) | 95%信頼下限 | 95%信頼上限 | P値 | |
1回接種 | 0.226 | 0.0528 | 0.964 | 0.0445 |
---|---|---|---|---|
2回接種 | 0.0957 | 0.0167 | 0.554 | 0.0088 |
集団有無 | 0.286 | 0.0413 | 1.98 | 0.204 |
昨年ワクチン回数 | 1.45 | 0.7 | 3.01 | 0.316 |
性別 | 2.73 | 0.907 | 8.23 | 0.0741 |
年齢 | 1.3 | 0.997 | 1.7 | 0.0523 |
インフル罹患暦 | 0.464 | 0.137 | 1.57 | 0.216 |
2回接種は良く効いているという印象ですが、1回でもちゃんと効いている。
有効率
(1-OR)*100とすると
1回接種有効率=77.4%(3.6~94.7%)
2回接種有効率=90.4%(44.6~98.3%)
※Fisher検定で1回接種と2回接種に有意差は認めませんでした。両者とも効果がかなり近いという印象ですが、オッズ比では2倍近い開きがあるので、調査数を多くすれば、有意差出せたんだろうと思います。
※なお、Test Negative Studyはあくまでウイルス検査キット陰性である事を指標としていますので、この有効率は、罹患しない、発熱しないという有効率ではありませんので、あしからず。
考察
なぜ効果が高かったのか?
昨年の注射型ワクチンは和歌山市におけるA型インフルエンザに関してはかなり効果が高かった。
この結論は、昨年の私の臨牀感覚と合致しています。昨年はとにかく、注射ワクチンが効いているという印象で、3年前とはえらい違いでした。
ただし、内科やってる嫁曰く、ご老人には、全く無効感漂っていたそうです。まあ、今回の集計は1-12歳で、不活化ワクチンの成績が良いのは3-12歳ですから、その影響が強かったんだろうとは思いますが、それでも今年は良く効いた方だと思います。
そもそもA/H3型に対するワクチンは、卵培養ワクチンでは、目的の株から亜型に変化しやすく、狙った通りの型を作りにくいため、外国製(Velo細胞由来)とくらべると効果が落ちやすいとされていますので、それだけでも2014/15シーズンは効果が低くなる可能性が高かった。
さらに、衛生研究所のin Vitro分析から、昨シーズン流行したA香港型ウイルスはそもそもワクチン株とずれており、ワクチンが無効である可能性が高かったにも関わらず、なぜ有効であったのかについて、明確な理由は見当たらなかった。(当院の研究の対象数が少なすぎるからかというと、そうとも言えない。あとでブログで紹介する予定ですが、2015年の仙台で行われた日本外来小児科学会での演題でも同様の傾向が指摘されていたのです)
1回接種 VS 2回接種(他の論文との比較)
Test Negative Designによる本邦でのインフルエンザワクチン分析では、2013/14年シーズンは文献A:6歳未満での800名の調査報告と、文献B:6カ月~15歳までの4727人による調査報告(毎日新聞でワクチンdisりに引用された)があります。
Aでは、1回接種と2回接種のオッズ比はほぼ同じなのに対して、文献Bでは2回接種がやや低く、1回接種と2回接種のカイ二乗検定によるオッズ比は0.72と若干2回接種が有効に出ています。(1回接種より2回接種のほうが2-3割ほど効果が上がるという程度)
2014/15シーズンの当院での検討では、効果がさらに高くでていますが、1回接種と2回接種の効果の差は20%程度でした。
つまり、この2年間、流行ウイルスは、ソ連型、香港型と変わりましたが、1回接種と2回接種の有効性の違いはいずれも20%程度ということでした。
この20%の差をもって、次回ワクチンは2回接種しようと思うか、1回でいいやと思うかは、皆様の考え方次第だと思います。
次に、当院の検定でもそういう傾向はありましたが、2013/14シーズンの文献Bでは、高年齢(13-15歳)になると効果が減っているようです。これを毎日新聞でネタにされてしまいました。これは、高年齢のワクチン接種回数が1回と少ないからかと考えると、そうでもありません。6ヵ月-12歳群の1回接種と0回接種のオッズ比は、0.48と有効率が非常に高(52%)く、高年齢群(13-15歳は有効率12%)よりあきらかに初回接種のレスポンスが高い(4倍近い差)と言えます。つまり、この年齢群に2回接種しても高い効果は望めなかっただろうと言えます。
post negative studyは、今後、毎年、ワクチン効果のモニタリングとして、発表されてきますので、10年単位でその効果判定を眺めれば、何かわかる事があるかもしれませんが、ある年の効果が低かったからという事で、今後のインフルエンザワクチンそのもの否定する論調は無茶苦茶だと思います。
また、小児科だけでは、15歳までで分析が終わってしまうので、今後は内科での発表も必要かと思います。(今度は当院も内科でやってみる?w)
解析のやりなおし(2016/9/3)
嫁の指摘で、やっぱり、検討人数が少ないので多変量解析ではなく、Fisher検定でやり直しなさいという事ですので、やり直しました。
1回接種について
未接種 | 1回接種 | Fisher検定 | Vaccine Effectivenes(VE) | |
---|---|---|---|---|
A型陰性 | 4(6.9%) | 8(22.2%) | P=0.053 OR=0.26 (0.0532~1.085) |
74% 94.7~-8.5% |
A型陽性 | 54(93.1%) | 28(77.7%) |
有意差出ませんでしたが、ギリギリですので、調査人数を増やせば、間違いなく有意差出せたと思います。
2回接種について
未接種 | 2回接種 | Fisher検定 | Vaccine Effectivenes(VE) | |
---|---|---|---|---|
A型陰性 | 4(6.9%) | 9(36%) | P=0.0018 OR=0.135 (0.0268~0.563) |
86.5% 97.3~43.7% |
A型陽性 | 54(93.1%) | 16(64%) |
2回接種では明らかに有意差がでており、今季のワクチンは有効であったと推定されます。
よって、Fisher検定でも、結論は変わりませんでした。
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