日本脳炎
どんな病気?
日本脳炎ウイルスに感染した豚やイノシシの血液を吸った蚊(小型赤家蚊※)を介して日本脳炎ウイルスが人の体の中に入る、かかってしまうと重大な病気です。
東南アジア全体で流行している病気です。現在国内での患者数は年間10名以下です。年齢的には50歳以上が多いのですが、この約5年間で6名の子どもの発症がありました。地域分布では圧倒的に西日本が多くなっていますが、地球温暖化のために今後北へ広がると予想されています。一般的に蚊が飛ぶ範囲は2km以内といわれています。日本脳炎のウイルスは豚やイノシシの血液の中で増殖するので、養豚場や、イノシシが出没する地域から半径2km以内に生活圏がある場合は注意が必要と思われます。
日本国内においては、年齢別発症者数を見ると、3歳未満と、20歳~40歳は発生数が少ないことから、厚労省は3歳からの予防接種を推奨していますが、1歳での発症も認める事から、あまり根拠は無いものと考えられます。また、日本の定期接種スケジュールは、9歳~13歳における、追加接種で終了します。これは、20歳頃まで抗体で守るプログラムで、その後、40歳までは、発症者が少ないために、問題はないと思われますが、40歳以降は、本来は、10年毎に予防接種を自主的に行う事が望ましいワクチンでもあります。(ただ、毎年蚊に刺される事で、免疫が維持されている可能性もありますが…)
和歌山県においては、養豚における日本脳炎抗体保有状況調査はなされていません。これは、大規模な養豚場が存在しなからと考えられますが、和歌山市内ですらイノシシが頻繁に出没する事から、注意は必要と考えています。
増幅動物
日本脳炎ウイルスにとって、人や馬などは、最終宿主で、最終感染者ではありますが、それぞれの体内では大量に増殖できず、人→人感染は起こしません。
このウイルスを増やして供給しているのは、増幅動物といわれる豚、イノシシ、サギなどであります。
よって、このウイルスを撲滅するためには、この増幅動物全てにワクチンを接種する必要がありますが、実質不可能ではあります。中でも、養豚は6ヵ月程度でで屠殺されるため、抗体を持たない個体が大量に発生し、重要な供給源となります。
養豚に対するワクチンプログラムはあるものの、その主な目的は、導入豚(母豚育成豚)の罹患が流産につながり、生産性が低下するためであり、対象が限られています。
よって、どんなに、人間にワクチンを接種して、日本脳炎の発症者が0人になったとしても、ワクチンを接種していない人が安全に暮らせるようにはならないという所は、肝に銘じる必要があります。
日本国内において、日本脳炎ワクチンで、日本脳炎罹患者を減らす事はできますが、ウイルスを持ったイノシシを減らす事はできません。日本脳炎の罹患者数が減っても、増幅動物と蚊がいる限り、日本脳炎ウイルスを持った蚊が減る事はあり得ません。
症状と経過
感染しても約100~1000人に1人程度しか症状が出ません。
潜伏期は6 ~16 日間で、定型的な病型は髄膜脳炎型です。
典型的な症例では、
- 数日間の高い発熱(38 ~40 ℃あるいはそれ以上)
- 頭痛
- 悪心
- 嘔
- 眩暈
- 小児では(腹痛、下痢)
などがみられます。
これらに引き続き急激に、
- 項部硬直
- 光線過敏
- 種々の段階の意識障害
- 神経系障害を示唆する症状(筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、麻痺、病的反射)
などが現れます。
感覚障害は稀で、麻痺は上肢で起こること多く、脊髄障害や球麻痺(嚥下障害等)症状も報告されています。
痙攣は小児では多いですが、成人では10%以下と少ない。
検査所見では、末梢血白血球の軽度の上昇がみられる。急性期には尿路系症状がよくみられ、無菌性膿尿、顕微鏡的血尿、蛋白尿などを伴うことがあります。
死亡率は20~40%で、幼少児や老人では死亡の危険は大きく、精神神経学的後遺症は生存者の45~70%に残り、小児では特に重度の障害を残すことが多いとされています。パーキンソン病様症状や痙攣、麻痺、精神発達遅滞、精神障害などの後遺症が残るとされています。
昭和40年頃は、和歌山市内でも普通に見られた脳炎です。当時、当院院長の日高病院勤務医時代の話で、『日本脳炎に罹患して助かった老人は、必ず記憶障害を伴うため、それを狙って、患者さんにお金を借りる目的で見舞いに来る人が増えた』そうです。
日本脳炎ワクチン
ワクチンの歴史
1937年から、マウス脳を使用した不活化ワクチンが小児及び高齢者を含む成人に積極的に接種され、日本脳炎発症者数は劇的に減少しました。
2005年、厚労省は200万接種に1回認められる副反応、急性散在性脳脊髄炎の原因がマウス脳によると決めつけ、積極的接種推奨の差し控えを行いました。WHOと一部の小児科医はこの決定に対し、根拠が無いと批判しましたが、2009年にVero細胞由来新ワクチンが発売されるまで押し通されました。(しかし、新ワクチンになっても、同じ副反応は出現し、結局、前回のワクチンと新ワクチンの副反応の違いは殆ど無かったという認識に至っています。)
積極的接種推奨の差し控えを2005年~2009年まで行ったため、日本脳炎抗体保有率が低年齢で劇的に低下し、その世代での日本脳炎発症者が増加してしまったため、現在は、特例措置が取られ、接種見合わせの間の不足回数分を定期接種として受けられます。1995年(平成7年)4月2日生まれ~2007(平成19年)4月1日生まれの方は、特例措置が適用され、20歳まで定期接種として公費接種が認められています。
採用ワクチン
乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン(ジェービックV)
製造販売元/一般財団法人 阪大微生物病研究会
販売元/田辺三菱製薬株式会社
- Velo細胞培養性ワクチンです。
- 以前使用されていたマウス脳型ワクチンと比べ、発熱率がやや高く、メーカー発表では18.7
- %で、マウス脳ワクチンの3倍程度です。発熱は初回接種時がほとんどで、接種後24時間以内に38-39℃台の発熱が24時間まで認めています。
- 発熱のみで、水分摂取良好なら自宅で24時間経過観察していただいて結構です。下熱剤を希望される場合は御受診ください。
当院での初回接種時の発熱集計
年齢(歳) 1 2 3 4 全体 発熱率 7.5% 4.8% 2.6% 2.4% 2.8%
接種方法
定期接種方法
第1期(生後6カ月~90か月まで):1-4週間隔で2回接種
(生後6か月から接種できますが、多くの地域では3歳からの接種となっています。かかりつけの小児科医と相談のうえ、お住まいの地域なども考慮のうえ接種してください。和歌山県は生後6カ月から公費接種が可能です。)
Q:低年齢で接種開始すると、免疫がすぐに切れてしまいませんか?
A:養豚場や、イノシシが出没する地域から半径2km以内に生活圏がある場合では、初回接種終了したら、その後は、ウイルスを持った蚊に咬まれる事により、ブースター効果で、免疫は維持されますので、心配は不要と思われます。
第1期追加:1期終了後、6か月以上経過してから1回接種
第2期(9歳~12歳):1回接種
この接種方法で、最終接種から10~15年程度まで抗体価が維持されます。
渡航ワクチン等、任意接種としての接種方法
これまで接種を受けていない、または、接種歴が不明の場合
出国までに最低1~4週間隔で2回の接種が勧められます。3回目は概ね1年後に接種とします。
最後の接種から10年以上が経過している場合
最終接種から5年後の抗体陽性率は82%、10年後には53%となるため、1回だけ追加接種が必要です。