抗ヒトパピローマウイルスワクチン
(抗HPVワクチン)について
子宮頚癌を予防するワクチン
ヒトパピローマウイルスって何?
HPV(ヒトパピローマ・ウイルス:Human Papiloma Vilus)の多くは皮膚に「イボ」をつくるウィルスで、感染してもほとんど心配はありません。
HPVって怖いの?
それほど恐ろしいウイルスではありませんが、嫌と言えば嫌なウイルスではあります。
現在約80種類のHPVの存在が知られていますが、
特に13種類のHPV(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59および68型)が発癌性が高いと報告されています。最近の報告では、さらに53, 67, 69, 70型も日本人においては、子宮頸癌の高リスクである可能性が明らかとなってきており、若年者の子宮頸癌患者ではHPV16型、18型の感染率が70%以上ではないかとも推測されているそうです。
性行為によって13種類の発癌性HPVのいずれかが感染すると数年後~数10年後に1~3%の女性が高度異形成(前ガン病変)にまで至り、さらにその約1/4(0.15%)が子宮頸癌を発生します。
1人の女性が子宮頚癌で死亡する確率は将来交通事故で死亡する確率の16分の1程度ですし、子宮頚癌予防の基本は検診ですし、今、過剰な心配をするものでもありません。
また、HPV 16, 18型は、男性・女性を問わず、中咽頭ガンや口腔ガンの原因ともなる事が分かっています。
女性が発癌性HPVに感染する可能性はどれくらいあるの?
一生のうちに女性が発癌性HPVに感染する可能性は80%程度といわれています。また、15~19歳の日本人女性の32%がすでに発癌性HPVに感染していることがわかりました。
それだけ身近に存在するウイルスで、現在大流行中です。
男性女性を問わず、性交頻度、パートナーの数が多い人ほどその可能性が増加します。
子宮頚癌はHPVだけが引き起こすの?
子宮頚癌のほぼ99-100%はHPVが原因であると言われていますので、ほぼ、このウイルスが原因と言ってもよいでしょう。
自然に免疫は出来ないの?
発がん性HPVは子宮頸部上皮に留まるため、獲得免疫系で重要な役割を果たす抗原提示細胞と出合う機会がほとんどありません。そのため、一度感染しても十分な抗体が産生されず、同じ型のHPVに繰り返し何回も感染します。
ワクチンでの子宮頚癌予防効果は?
全ての発癌性HPVに対する予防効果はありません。
特に頻度の高い16型、18型に対するワクチンが発売されており、ワクチンをきっちりと接種した場合、ほぼ100%予防抗体が誘導されます。 16型と18型の頻度は全体の発癌性HPVの60%程度ですので、この2価だけを含んでいるワクチン(サーバリックス、ガーダシル)の場合は、子宮頚癌を予防できる可能性は60%程度ということになります。
ワクチンを接種したら、もう子宮頚癌の事を心配しなくて良いの?
いいえ、2価ワクチンでは60%程度の子宮頚癌予防効果が20年ほど持続するだけと考えてください。
※シルガード9を使えば、90%程度の予防が現時点では可能となりました。しかしながら、認可されて数年すれば、原因ウイルス株の変化が起こるため予防効果が落ちてくる可能性は残っています。
ですから、子宮癌検診は欠かせません。
じゃあ、ワクチンするより子宮癌検診するほうが良いの?
はっきり言うと、”きちっと検診する” のなら、そういうことになります。
子宮癌検診ではほぼ100%近く前癌病変を見つける事ができ、発見された人の90%は救命できます。(ワクチンでは60~90%程度です。)
しかも、費用は自治体が援助してくれます。
しかし、検診のデメリットがあります。
1:子宮頚部に綿棒を医師につっこんでもらって細胞診を行う必要があるので、若い女性では恥ずかしいので、行きにくい。
実際、日本の子宮頚癌検診の受診率は先進国最低レベルです
しかし、子宮頚癌の発生頻度は恥かしがる若い女性に多いというのも事実
2:検診で前癌病変を見つけると子宮頚部円錐切除術という簡単な手術をしなくてはなりません。
3:2年毎に子宮癌検診を欠かしてはならない。
ですから、ワクチンをしておいて、かつ、検診を受けられる範囲で受けておくというのが安全ということになります。
HPVワクチンのコストパフォーマンスはどうなの?
性交渉前の接種ならそれなりに意味があると思います。
接種回数は通常は計3回※で自費の場合、総額50000円程度かかりますので、個人から考えると痛い出費です。
※)他国では低年齢で接種する場合は1~2回接種でも有効という報告が上がってきています。
確率の変化 | |||
---|---|---|---|
1人の女性が子宮頚癌になって死亡する確率 | 0.04%(※1) | 性交前接種で→ | 0.016% |
1人の女性がHPV16, 18型に感染したために 子宮頚癌になって死亡する確率 | 0.024%(※2) | 性交前接種で→ | 0.00024% |
Hib感染症で5歳未満で死亡する確率 | 0.0035% | 接種で→ | 0.000035% |
1人の人間が生涯に交通事故で死亡する確率 | 0.6%程度(※3) | ||
1人の人間が5歳までに交通事故で死亡する確率 | 0.0035% | チャイルドシートで→ | 0.00058% |
1フライトあたりで、飛行機事故で死亡する確率(JAL) | 0.00013% | ||
年末ジャンボ宝くじを1枚購入して、1等を当てる確率 | 0.00001% |
※1)発癌性HPV感染確率0.8*前癌病変0.01~0.03*発ガン率0.25*早期発見での死亡率0.1=0.0002~0.0006→約0.0004
※2)0.0004*0.6=0.00024
※3)年間確率×人生80年として
子宮頚癌で死亡する確率は、JALに307回搭乗した場合の死亡率と等しいようですね。
こう見ると、ヒブワクチン以上の予防効果がありますので、性交前の女児に接種する価値は十分にありそうです。子宮頚癌の罹患率の高さからしますと、日本国として子どもには打つべきワクチンですが、性交渉後、中年以上の成人が5万円近く払ってするべきかどうかは、難しいところです。
抗体価は推定で20年ほど持続するかもしれないという事ですので、5万円の品物を買って、20年使い続ける感覚でしょうか。
性交渉後年齢、特に結婚~出産を終えた年齢の女性は無意味?
性交渉前年齢での接種が推奨らしいですが、性交渉後年齢、特に結婚~出産を終えた年齢の女性で、夫との性交渉しかない人が打っても無意味ですか?
いえ、無意味ではないのですが、そこに接種費用(5万円)相当の価値があるかは、良くわかりません。
コロンビア国立がん研究所のNubia Munoz氏らはLancet誌2009年6月6日号に報告した内容では、24~45歳の女性に対して、ワクチン投与群とワクチン非投与群で16、18型HPV感染症の比率を調べたところ、平均2.2年の追跡で、16型または18型の感染は、それぞれ1601人中4人と1579人中23人で、有効率は83.1%(50.6-95.8%、p=0.0001)と示し、有効である事を証明しました。この論文からワクチンメーカーは無意味ではないとテレビで言っているわけです。
しかし、特定人(夫と妻だけ)との性交渉の中で新たなHPV感染が発生しているのか、それとも他の異性との性交渉によって発生しているのかについてのデータがありません。
特定人とだけの性交渉で新たなHPV感染を引き起こす可能性は、多異性との性交渉によるものと比べ明らかに低いと想像できるからです。
その低い可能性に、発ガン~死亡する可能性まで鑑みた場合のコストパフォーマンスはかなり低いと思われます。
HPVワクチンって、どんな種類があるの?
2009年12月に認可されたサーバリクス(グラクソスミスクライン)とガーダシル(MSD)があります。
ガーダシルは子宮頚癌を引き起こすHPV 16. 18型だけでなく、尖圭コンジローマという性病を引き起こす6, 11型に対する抗体も得られます。
ワクチンの種類
サーバリックス Cervarix (グラクソスミスクライン) | HPV 16,18型の2価ワクチン |
ガーダシル GARDASIL (MSD) | HPV 6、11、16、18型の4価ワクチン |
シルガード9 SILGARD9 (MSD) | HPV 6、11、16、18、31、33、45、52及び58型の9価ワクチン |
※シルガード9は2023年4月頃から定期接種となる予定です。
先生の結論は?
- 性交渉前の女児は無料ならば、接種を。
- 接種後の局所の腫れは必須と思ってください。
- 性交渉以後、中年以上での接種は余裕のある方に。
- 性交渉以後、中年以上の方は子宮癌検診が大事です。
- 世界的にシェアNo1はシルガード9です。