「保育園からウイルス検査するように言われたので、来ました。」
「会社でインフルエンザ検査の陰性証明が必要と言われた」
この時期、ノロウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルスなど、いろいろ検査が出来るようになってきましたので、このような訴えの方がたまに、いらっしゃいます。
保険で検査を行うためには
保険診療で行うには、保険医療機関及び保険医療養担当規則に則る必要があります。この第20条の1に「各種の検査は、診療上必要があると認められる場合に行う」とされており、その検査を行う事によって、その患者さんの診療内容に変化が見られる場合にのみ保険が適応されます。ノロやロタウイルスの場合、一般的な感染性胃腸炎と治療方法が同じであるため、検査でウイルス名がわかっても診療方法に変化がありません。
よって、保育園などの施設が、情報として検査を希望したり、保護者に指示した場合は、保険が適応されません。ので、自費検査となります。
検査結果の信ぴょう性
次に、検査を行った場合、その結果をどう考えるかという問題があります。
陽性なら、100%その疾患なのでしょうか。陰性なら100%その疾患ではないと言い切れるのでしょうか?
実は、まったくそうではありません。
一般的な検査(ノロウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス)の感度は80~90%, 特異度90%では、検査結果をどのように解釈したらよいのでしょうか。
検査前確率(罹病率、有病率)と検査後確率(陽性的中率)について、コチラのサイトがわかりやすく解説してくれておりますので、このブログでの解説は省かせていただき、結論だけ書かせていただきますが、その前に用語の解説。
- 感度
実際の病人にその検査を行って、陽性と出る確率 - 特異度
病人でない人にその検査を行って、陰性と出る確率 - 検査前確率(罹病率、有病率)
検査をする前に、その患者さんが目的の病気である可能性を示します。
たとえば、真夏の咳だけの患者さんがインフルエンザである可能性は、ほとんどないですが、真冬の小学校で、インフルエンザによる学級閉鎖が始まっているクラスの子供が高熱を出した場合のインフルエンザである可能性は90%近いと考えられます。 - 検査後確率(陽性的中率)
検査が陽性に出たことによって、目的の病気である可能性を%で示したもの。 - 陰性的中率
検査が陰性に出たことによって、目的の病気に罹患していない可能性を%で示したもの。
これは、ベイズの定理に則って、確率グラフで示しますと、以下のようになります。
これを見ますと、
医者が診察して、季節、症状、他の患者さんの来院状況から感染性胃腸炎(ノロまたはロタ)の可能性が高い(検査前確率80%)と判断した場合、このグラフからわかる事は、
- 検査で陽性と出た場合
陽性的中率は97%なので、ノロやロタである可能性は、97%である。(その疾患である確率が検査前は80%であったが、97%に上昇し、ますます疑わしくなった。) - 検査で陰性と出た場合
陰性的中率は53%なので、ノロやロタでない可能性は53%で、ノロやロタである確率は47%もあります。
つまり、検査をする前に症状や状況から医師がその病気である可能性が高いと判断した時点で、検査が陰性であっても、かなりの確率でノロやロタであるという事になります。
こういった事から、インフルエンザ治療においても、かなりの可能性でインフルエンザが考えられる場合は、検査が陰性でも、インフルエンザの治療を行っても良いわけです。
もっと、過激な言い方をすると、もしインフルエンザ検査結果陰性でもインフルエンザ治療をすると決めている場合、その検査は"診療上必要ない"と解釈されうるとも言えます。
そういった意味で、医師から感染性胃腸炎と言われているのに、ノロやロタウイルスの検査を指定して来院する事は、意味のない事を意味のあることの様に誤解していると言えます。
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