小児科 小山博史です。
現在、実施中の風疹ワクチン助成制度は、本年3月末で終了してしまいますので、代わりの対策事業案が回ってきました。
今後(2014/4/1~2015/3/31まで)は、
- まず、条件を満たした人のみ、無料で抗体検査をする。
- そのうえで、一定以下の抗体価の人だけ、ワクチン費用を助成する。
というものです。
尚、男性は一旦中央保健所で助成用紙をもらう必要があるそうです。
ちなみに、この制限をかけているのは、和歌山県で和歌山市だけです。他の市町村は、今まで通りだそうです。
無料で風疹抗体検査が受けられる対象者
和歌山市に住所を有する市民で次の3つに該当する方
- 16歳以上50歳未満の妊娠を希望している女性
- 妊娠を希望している女性の配偶者等(※事実上婚姻関係にある者を含む)
- 抗体検査の結果が抵抗体である妊婦の配偶者等(※事実上婚姻関係にある者を含む)
上記は、原則として過去に風疹抗体検査を受けたことがある者、明らかに風疹の予防接種歴(2回)がある者、もしくは、検査で確定診断を受けた風疹の既往歴がある者は除く。
検査の結果、HI法16倍以下、EIA法8未満の方を抵抗体の人と定義します。
助成される金額と範囲
対象者 | 自己負担 | 助成回数 |
---|---|---|
16歳以上50歳未満の妊娠を希望している女性 | 0円 | 1回のみ |
妊娠を希望している女性の配偶者等 | 0円 |
となっています。
ポイント
- 事実上婚姻関係にある者とは ?
入籍していないが、同居しているとか、近々入籍予定とかを、保健所で言えば良いみたいです。 - 明らかに風疹の予防接種歴(2回)がある者を除くとは?
前回の助成事業で1回だけワクチンを受けた人も対象です。 - 1回だけ検査費用が助成されます。
無料で予防接種が受けられる対象者
和歌山市に住所を有する市民で以下の2つに該当する抵抗体の方
- 16歳以上50歳未満の妊娠を希望している女性
- 低抗体の妊婦の配偶者(※事実上婚姻関係にある者を含む)
※妊娠中または妊娠している可能性のある女性、明らかに風しんの予防接種歴(2回)がある者
若しくは検査で確定診断を受けた風しんの既往歴がある者は除く。
助成される金額と範囲
対象者 | 自己負担 | 助成回数 |
---|---|---|
16歳以上50歳未満の妊娠を希望している女性 | 0円 | 1回のみ |
低抗体の妊婦の配偶者 | 4600円 |
ポイント
- 抗体検査の対象者は妊娠を希望している女性の配偶者でしたが、予防接種助成対象は、低抗体の妊婦の配偶者に変わっています。
- 妊娠を希望している女性の配偶者さんが、抗体検査の結果、低抗体とわかっても、女性側パートナーが低抗体の妊婦でなければ、予防接種費用は助成されません。
2013年度とどう変わったの?
- 低抗体価でないと接種してくれなくなりました。
- いままでは、妊婦の夫しか予防接種の対象になりませんでしたが、妊婦と事実上婚姻関係にあれば接種できる事になりました。(ただし低抗体価の妊婦に限る)
- 妊娠を希望している女性の配偶者は、抗体検査だけなら、無料でできるようになりました。
風疹流行阻止に有効なの?
今回、低抗体価でないと予防接種を無料でしてくれないという事になりました。
HI抗体価で妊娠希望の女性は16倍以上、男性は8倍以上あれば、集団免疫としては有効といわれていますが、妊婦の夫という制限をつけましたので、この時点で、男性と妊娠を希望しない女性が対象からはずれたので、集団ではなくなって、小集団になりましたので、こうなると、集団免疫の定義を当てはめられなくなりまして、以前のお知らせにも書きましたが、流行阻止としては、効果の弱い助成です。
以前のお知らせにも書きましたが、HI抗体価は、中和抗体価ではないので、その数値が高いから絶対に風疹にかからないといえるものではありません。HI=64倍で先天性風疹症候群の子供を出生した前例がある以上、それ未満では個人防御としては、不十分で、HI=16倍以下の人だけ接種するというのであれば、そもそも、希望者全員に抗体検査とワクチン接種を行う必要があります。
ただ、昨年の大流行で、多くの方が感染したと思われ、この程度で抑えても良いだろうという判断なのかもしれません。しかし、2回の予防接種を実施しているアメリカでも、小流行が発生するわけですし、1979/4/1~1987/10/1生まれの方々は1回~0回接種ですし、4期、5期まで追加接種を臨時で行った麻疹も流行が減ったとおもったら、今年も輸入感染から小流行でてきていますから、この状況では、オリンピックまでに風疹流行を止めるのは、難しいと思われます。
昨年大流行後の和歌山県の先天性風疹症候群発生数
さて、先天性風疹症候群は2014年1月29日の時点で、60名報告されています。都道府県別では、現時点で以下のとおりです。
順位 | 都道府県 | 先天性風疹症候群の数 |
---|---|---|
1 | 東京 | 11 |
2 | 大阪 | 6 |
3 | 神奈川 | 5 |
3 | 埼玉 | 5 |
5 | 和歌山 | 2 |
5 | 愛知 | 2 |
7 | 兵庫 | 1 |
和歌山県は風疹発生率が全国第三位と高値でありました。先天性風疹症候群発生数は全国第5位です。
総数では兵庫県が全国第3位であったのに、先天性風疹症候群発生数は第7位であるのは、見つかっていない症例が多い可能性があります。
先天性風疹症候群はたった60人なのか?
先天性風疹症候群の症状の中で、もっとも診断に時間を要するのは、発達障害(知能障害)です。3年以上かかりますし、そのころ、風疹が原因であったかどうか、診断する事ができません。そのため、現在東京の小児科有志が国立国際医療研究センター病院の関連研究で、風疹大流行期に胎児であった、小児の希望者の風疹ウイルス検査を行っています。この中で、無症状の先天性風疹感染胎児が将来、どのような予後になるのか追跡しています。
1人あたりの終生納税額は1人あたり、平均1億円ですので、現在60人の子供たちが、障害なく出生すれば得られたはずの60億円の税金が、減るだけでなく、障害者年金や、医療費として、よけいに必要になる費用を合わせると、そのコスト以下なら、かけるべきであろうと思われますし、その試算を公表してみても良いと思います。
どんな制度なら流行を止められるか?
結局国の予算の問題、財務省の問題と、実際の被害に対する認識の問題となりますが、戦力の適宜投入は結果的にコストが高くなることを考え、ワクチン2回未接種者はすべてワクチン接種を行うくらいがベストではあります。
しかし、そうなると、昨年はワクチンの流通在庫が枯渇して接種不可能となりましたので、現実的には、名鉄記念病院の宮津先生の提案のように、風疹ワクチンを2回接種していない人は、(本当は、2回接種しても抗体取得率は95%程度ですので、接種完了者も対象にしたいところですが、)男性と妊娠しない女性でHI抗体価16倍未満、妊娠する可能性のある女性は32倍未満はすべて接種すべきであろうと思います。
生馬医院のおすすめは?
集団防御は行政の仕事ですので、今回の制度ではあまり期待できませんので、個人防御としては、HI抗体価では、女性は128倍以上、男性は64倍以上が先天性風疹症候群発症の前例がないということを目安にするしかないと思います。
- 昨年ワクチンを接種した方であっても、無料で風疹抗体検査が受けられる対象者の人は抗体検査を受ける。
- HI抗体価16倍以下の人
- 女性は公費で接種する。
- 男性は自費で接種する。
- 32~64倍までの人(64倍も含む)
- 女性は自費で接種する
- 男性は、32倍以下なら自費で接種する
- HI抗体価16倍以下の人
- 対象者でない人は、ワクチン未接種なら、希望があれば、自費でワクチンを接種する。
※なお、風疹罹患経験者は、抗体検査を受けていない人は実は未罹患と思っておいた方が無難です。それくらい、診断が曖昧です。
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