母乳の利点
2017-04-06 (木) 20:19:05更新
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母乳の利点について
現在分かっている範囲内での母乳の利点について列挙します。
人工ミルクの歴史は高々数十年しかありません。母乳は人類始まってからの歴史があり、未知の栄養素が多く含まれているため、出来る限り飲ませてあげたいものです。
若いお母さんは、できるだけ頑張って母乳育児を。乳癌年齢母体の方は、無理せず自然に任せる感じがよろしいかと思います。
1)病気にかかりにくくする。
免疫物質が含まれているので病気を防ぎます。ユニセフの発表では、6ヶ月以上母乳単独で栄養された児と人工栄養だけの児を比べると、肺炎の罹患率が30倍違うといわれています。
中耳炎に罹かりにくくなる。
抗インフルエンザ菌IgAの抗体価が高い母乳を飲んでいる子どもほど中耳炎の罹患頻度が低い事が示されており、他の菌に対する抗体も含まれていることも考えると、中耳炎に対して保護的に作用していると考えられます。
2)栄養のバランスが良く、消化に良い。
母乳のたんぱく質は粉ミルクに比べて半消化状態なので、腸にやさしいです。ですから下痢などの時にも飲み続けられるわけです。1500g未満の未熟児は母乳なら飲めますが、人工ミルクでは腸が壊死してしまいます。(ただ、消化しやすいということは、逆に腹持ちが悪く、2~3時間ですぐ空腹になるということです。)
3)腸内で正常細菌を増殖させる。
赤ちゃんの腸内で繁殖する正常細菌はビフィズス菌と乳酸菌です。
これらの細菌は通常お母さんの腟内に存在し、赤ちゃんが経膣分娩で腟内を通過中に初めて接触し、それが母乳によって栄養され、赤ちゃんの腸内で増殖します。しかし、人工乳で育てられた赤ちゃんの腸では大腸菌(成人と同じ細菌)が増殖し、希に血液中に移動し、赤ちゃんに重症感染症を引き起こす場合があります。(ただし、最近の人工乳は乳酸菌やビフィズス菌が増殖しやすい様に改良が加えられはじめています。)
4)母体の回復を早める。
乳首を吸われることにより、オキシトシンというホルモンが分泌され、子宮の収縮を促進させ、悪露の排泄を促します。
また、周産期に増加した母親の体重は母乳を吸われることによって減少しやすくなります。(体重3kgの赤ちゃんはお母さんから300kcal分のエネルギーを1日に母乳から吸い取ります。また3ヶ月の赤ちゃんは600kcal分の母乳を飲みます。母乳を与えないということは、1日300~600kcal分の運動、またはダイエットが必要ということになります。)600kcalは軽食1回分です。
5)ミルクアレルギーを起こしにくい。
乳たんぱく質が人から作られているということや、半消化されていることから、アレルギー反応が起きにくくなっています。
6)子の情緒を安定させる。
吸啜による鎮静反射や、母と子のスキンシップは親子共に情緒的安定をもたらします。
7)乳がんになりにくい。
乳癌の発生率が5%程度低下します。(5%なんて減っても意味ないという乳腺科のDrもいましたが・・・。ただし、既に潜在性乳癌が発生している可能性のある40歳付近の乳癌年齢母体においては、その潜在性癌は、授乳行為によって、確実に悪化する方向に働くそうですので、5%低下するというのは、あくまで”若い女性において”と理解する必要があります。)
また、母乳育児したにも関わらず、運悪く乳癌を発症した場合も、授乳しなかった女性に比べて、がんの再発およびがんによる死亡の可能性が低いという報告もあります。ハザード比が0.56。
8)母親の情緒を安定させる。
乳首を吸われることにより、オキシトシンというホルモンが分泌されますが、オキシトシンは、前頭葉機能を改善させ、気分を安定させ(抗うつ作用)、子供の夜泣きによる睡眠中断にも耐えられる脳を作ります。
(人工栄養ですと、睡眠不足感が半端なく、イライラしやすい。)
9)IQが高くなる。
ブラジルで3500人近い赤ちゃんを追跡調査した結果、母乳を与えられた期間が長いほど成人後の知能指数が高いという研究が、英医学誌「ランセット・グローバル・ヘルス」に発表されました。
※平均の差が3.76と僅かですので、どうってことない差で、生来を左右する程度ではありませんが….
人工ミルクとの差が何によるものか、不明です。脳内にもっとも豊富に存在するω3脂肪酸であるDHAは、母乳に豊富と言われていますが、日本の人工ミルクにはすでに添加されていますので、日本で調査したら同じ差がでるかどうかは不明です。
10)概日リズムを整える
人間は、夜になると、睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌され、深い睡眠が維持されていますが、生後3~4か月までは、赤ちゃん自身はメラトニンを十分に作る能力がありません。夜間、母乳を介して母親からメラトニンが赤ちゃんに与えられることで、夜間の深い睡眠と概日リズムの早期確立に貢献します。
母乳と人工ミルクの使い分け
出来る限り母乳を飲ませてあげたいとは言っても、生後6ヶ月頃から人工ミルクに変更して職場復帰しようと思っても赤ちゃんによっては、母乳や、母親の乳首以外受け付けなくなる場合があります。
生後2.5ヶ月を越えると、味覚が発達し、母親の母乳の味に慣れています。また、通常の人工乳首は吸って飲むのですが、母親の乳首は舌による圧迫と絞り動作で飲みますので、母乳しか飲んだことがない赤ちゃんは人工乳首での飲み方がわからず、戸惑います。(これを乳首錯乱と言います)
(最近発売されている母乳に良く似た飲み方で飲めるタイプの乳首は乳首錯乱が起きにくいです。)
生後3ヶ月までの母乳には免疫物質が多量に含まれていますが、3ヶ月以降はかなり減少します。また、2.5~3ヶ月までは人工乳への変更は容易ですが、3ヶ月をこえると、母乳または母親の乳首以外を受け付けなくなる場合があり、働くお母さんには、生後3ヶ月前あたりから赤ちゃんに合う人工乳首や人工ミルクを探し、混合栄養へ移行し、人工ミルクに慣れさせておいたほうが、現在の社会事情に合っている場合がありますが・・・。
このあたりの判断は各自の家庭事情、職場事情で考慮していってください。
赤ちゃんへの人工粉ミルク作成に関するガイドライン
医師会から、赤ちゃんへの人工粉ミルク作成時の注意点について、患者への指導を行うよう通知が来ました。
『乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取り扱いに関するガイドライン』というものです。
詳しくはリンクを見ていただきたいと思いますが、要点だけ示しますと
- 人工ミルクの粉の中には、サルモネラ菌やエンテロコッカス・サカザキという食中毒菌が存在しています。
- これらの菌を100%除去して製造する方法はない。
- よって、熱い(70℃以上の)お湯でミルクを溶かして作成し、
- 作成後2時間以内に飲ませて、残りは破棄してください。
- 作り置きをする場合は、作成後速やかに5℃以下に冷却し、使用時に暖める事。
- 暖める場合、電子レンジでは焼けどの原因になるので、湯銭で15分以内に暖め、すぐ授乳させ
- 2時間以内に破棄すること。
(※安全なミルクの作り方パンフレット)
です。以前から未熟児には、問題となっていた菌ですが、最近は成熟児にも問題となってきたようです。
ゲップのさせ方
授乳の後は飲んだ空気を吐かせてあげましょう。(お座りが出来るようになる6-7ヶ月くらいまでは必要なことが多いです。)
首が座らないうちは、お母さんの肩にかつぎ上げるようにして抱き、背中をさすったり、軽く叩きます。
ゲップが出ない時も最長20分くらいまではがんばってみて下さい。(あくまでもお母さんの出来る範囲内でですが・・・)
ゲップ不足の症状
- おなかにガスが溜って大きなおなかになる。
- 便秘
- 嘔吐する(1日2‐3回、ゲボッと一気に吐きます。)
- 突然強烈に泣き出し、あやしても泣き止まないが、しばらくすると突然泣き止み、眠る。(腹痛:主に夕方に多く、『夕暮れコリック』とも呼ばれる)
- オナラをよくする。
※どうしてもゲップが出ない場合は諦め、飲みこんだ空気を早く出すために綿棒で肛門刺激を定期的に行い、オナラを誘発させてください。
※4)の様な症状が出る場合、幼児用浣腸(薬局で購入)を5ml程度すると、排便・排ガスとともに泣き止む事があります。
※十分ゲップできているのに、おなかが張って、オナラが多いなどの症状があり、浣腸などで泣き止む事が多い場合は、腸内細菌のバランスの問題も考えられます。