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前回のコロナ記事から三週間ほどたって、ある程度わかってきたことを基に書いてみたいと思います。一般人より、玄人向けです。
インフルエンザのように感度特異度の高い検査がないので、軽症例とくに小児例の存在状況がまったくわからない状態で、分かっているのは、小児は感染してもほぼ例外なく軽症ということだけです。
以下は最新の文献からの引用ですが、これらは、明らかに症状が出た人達とその周辺にいた無症状の人たちを集計したもので、何でもかんでも検査しまくった結果ではありません。
そのあたり、バイアスの存在を考えて読み解く必要はあります。
症状
咳(67.8%):3割近くは咳がない
もっとも一般的な症状は咳ですが、3割の人は咳がありません。咳の有無でわけても感染の危険はぬぐえません。
熱(43.8%):半分の人は熱がない
37.5度以上でカットすると、43.8%しか熱は出ないそうです。
半分の人は発熱していません。よって、発熱の有無で患者さんを分けても意味がないということになります。(インフルエンザはある程度意味があります。)
倦怠感(38.1%)
痰(33.7%)
筋肉痛または関節痛(14.9%)
咽頭痛(13.9%)
悪寒(11.5%)
悪心または、嘔吐(5.0%)
下痢(3.8%)
検査所見
次に検査所見からの頻度別を示します。
- 両側性、末梢性すりガラス様肺炎を認め、
- リンパ球と白血球が少なくて
- CRPがほんのちょっと高いのに、
- プロカルシトニンが低い
というのが特徴のようです。
(ちなみに重症例では白血球が増加してきます)
が、開業医で直ぐに結果がわからないものとして、プロカルシトニンとdダイマーがあげられますので、それら以外と症状経過から推定していくことになります。
CT異常(86.2%)
非常に感度が高く現場では最もよくわかる検査です。
流行期に間質性すりガラス陰影が両側末梢性に現れた場合の特異度は高そうです。
末梢血リンパ球数1500個以下(83.2%)
CRP10mg/L(1.0mg/dl)以上(60.7%)
胸部レントゲン異常(59.1%)
こちらもすりガラス陰影が両側に現れた場合の特異度は高そうです。
dダイマー0.5mg/L以上(46.4%)
LDH 250U/L以上(41.0%)
末梢血白血球総数4000個以下(33.7%)
プロカルシトニン0.5ng/ml以上(5.5%)
検査実施のフローチャート
これらの所見をまとめて、検査実施のフローチャートがLANCETから示されています。
PCR検査精度の悪さ
新型コロナウイルスは鼻汁、喀痰、便などに主に排泄されますが、そのウイルス量が非常に少なく、インフルエンザの100~1000分の1ともいわれており、遺伝子(PCR)検査での感度が非常に悪すぎて、いったい感度がどれくらいなのかすら、数字で出てきません。
非常に症状が疑わしくてPCR検査が陰性だけど7回検査したら、7回目に陽性になったという話も出ており、もはや、診断でもっとも精度が高いのは、正確な病歴聴取とCT検査ということになっています。特に胸部CTの感度はPCR検査と一致したもので計算すると97%と高く、絞り込みに有用です。では特異度(その検査で陽性であった場合に本当にようせいである確率)は?と言われますと、今ある検査で特異度の高い検査は存在していないので、わからないというのが本当のところと思います。PCR検査で陽性なら絶対だろうとか思う人いると思いますが、ウイルス粒子が1匹だけたまたま取れただけ陽性になりますから、いま現在肺炎の原因とはいえないので、臨床症状と一致した場合に診断できるという事を踏まえると、結局今のところは、臨床症状と経過とCTとの合わせ技しかないようです。
小児科医なら知っている人もいますが、一般感冒に片っ端からウイルス検査すると2−3種類が同時に発見されることもよくあり、どっちが病気起こしてるかわからんこともあるのです。
当院での検査方針
これを踏まえた上て、当院で出来る範囲の検査でまかなっていこうと思いますが、何でもかんでも、感度の悪いPCR検査を希望してきても、当院ではやりませんので、あしからず。
また、コロナウイルスの陰性証明をしてほしいとか、そういった証明は無理ですので、お断りいたします。
以下に示します通り、空気感染もしくは、エアロゾル感染が起こりうるため、コロナウイルスの検査は、保健所を介して、帰国者・接触者外来に紹介して実施してもらう予定です。
感染形式
続きまして、現在までに分かってきた感染形式のおさらいです。これを熟知していないと、院内感染を予防できません。
接触感染、飛沫感染、エアロゾル感染、飛沫核(空気)感染については、こちらを参照ください。
感染様式の頻度として、当院は多少の独断も含めまして、以下のように考えています。
接触>飛沫>エアロゾル感染>空気感染
未換気の密室では空気感染あり
当初、空気感染はしないとも言われていましたが、タクシーやバス、ライブハウスなどの密閉空間で感染が多発しているため、弱いながらも空気感染はちょっとだけあるのではと考えられます。(コロナは換気しなさいと喚起)
通勤電車では感染しないのに、ライブハウスで感染するのは、定期的な換気(停車によるドア開放)が原因なのか、大声張り上げたりなどの特殊な状況でエアロゾルが発生しているのではないかという議論もあるようです。
・大声張り上げたりするからエアロゾル化して密室で感染するのか?
・空気感染だけど、空中で分解されやすいから、密室でのみ感染するのか?
どちらかわかりませんが、当院としては、『未換気の密室では空気感染アリ』の立場をとっておきます。
ちなみに、エアロゾル・空気感染は、通常マスクでは予防できません。
トイレでエアロゾル感染あり
エアロゾル感染に関して実際に起こる場面は、医療現場で吸引などを行った場合であると言われていますが、感染者が便を水洗で流した時に発生するエアロゾルの危険性については述べられてはいるものの、それによる実際の感染はコロナウイルスにおいては、未だ立証はされていません。しかしながら、危機管理として当院は、『トイレでエアロゾル感染アリ』の立場で行きたいと思います。
感染しやすい場面
接触>飛沫>エアロゾル感染>空気感染
接触感染
トイレ(スイッチ、便座、蓋)、一つのものを皆で使い回す食事形式(ビュッフェのトング、)、カラオケのマイク、接触面積の多いもの(トレーニングジム機器、等)
手洗いしないで顔や口や鼻や眼を触る行為
- Coronavirus lingers in rooms and toilets, but disinfectants kill it: Singapore study
飛沫感染
満員電車やパーティーなどの2 m離れられない所、感染者がマスクをせず咳をしている場所
エアロゾル感染
次の空気感染とだいぶかぶりますが…換気が不十分な場所で、
感染者が排便した後に、蓋を閉めずにトイレフラッシュした時
大勢で、大声張り上げる、ぺちゃくちゃおしゃべりする
鼻汁吸引などの医師の医療行為
空気感染(飛沫核感染)
密室で換気されていない所(タクシーやバス)、ライブハウス)
※電車は毎回大きくドアが開けば大丈夫みたいですが、きのくに線とか、ボタンで開くドアは、開けなかったら密室ですね。しかし、エアロゾル感染が大声でしゃべったり叫んだりする状況で発生するのなら、電車では皆が黙っているので大丈夫かもしれません。
感染しやすい人
- 不特定多数と接触する人
- 年齢が高い人
こうなりますと、生産人口の中の最高齢である60代が最高に感染しやすい人となります。
※ちなみに、定義上、今のところ、感染者と2分以上立ち話したら濃厚接触者扱いだそうです。
小児はどうなのか?
乳児は感染し、16日ほどウイルスを鼻から排泄している
小児において、生後6か月児が無症状でありながら、16日間ウイルスを鼻から排出し続けたという論文が存在し、小児は全ての年齢が感染し、感染した場合は2週間程度、他人に感染させる危険があるという報告があるものの、年齢別に詳しく調べた論文がなく、実際にどの年齢層がウイルスを増殖、排泄し続けるのかは、正確には不明です。
これらの情報が出てこない最大の理由は、検査の感度が著しく低いために、激しい症状が出る人しかウイルスの存在が確認できず、そもそも症状がでない小児においては、成人の重症患者の家族としての検査でたまたまわかったという、散発例の個別報告しか存在しなからです。
—-Novel Coronavirus Infection in Hospitalized Infants Under 1 Year of Age in China
院長の単なる想像として
コロナウイルスは主な風邪ウイルスであるだけに、低年齢児(保育園児)はこれらの風邪にしょっちゅう罹患しており、今回の新型ウイルスに対して交差免疫が働く可能性についての調査もありません。
もし、交差免疫が働くと考えた場合、幼児と働く保育園や小児科スタッフは同様に感染に強い可能性はあります。今後、保育園の園長や小児科クリニックの医師の重症化症例が出てくるのかどうか、見ておくのも良いかと思います。(理事長クラスは、接触少ないので当てにならないかな?あと、NICU勤務から変更したばかりの小児科医も感染に弱い。)
ちなみに北海道で中学校教師がコロナに感染していますので、この年齢層では、学校での普段からの流行がないのかもしれません。
重症化しやすい人
- 60歳以上
- 心疾患、高血圧、心疾患、糖尿病などの基礎疾患をもっている人
皆さまご存じでしょうが、年齢が高いほど危険となり、80歳以上での死亡率は、中国では15%にも上っています。ただし、コロナウイルスは軽症者の感染確認がほとんど不可能ですので、この数字は、”コロナで症状でた場合の人についての話” と割り切る必要があります。コロナに感染したらこうなるではなく、コロナである程度症状が出現した場合の死亡率と考えた方が良いかもしれません。
新型コロナの中国の死亡率が日本とそれほど変わらないと考えた場合、日本のインフルエンザと比べるとダントツに高いです。
今のところ日本での死亡率は0.8%程度と低く、中国全体の死亡率2.3%と比べ低いのは、感染爆発が起きて、病院がパンクしていないからと考えられています。
インフルエンザはわが国では、早期タミフル使用や、ウイルスキットで軽症例を探しており、死亡率はおのずと低くなるので、コロナと比べるのは土俵が違うのですが。
感染予防の優先順位
そういう事で、皆さまが感染を予防するための優先順位を考えると、以下のようになります。
- 手洗い
顔を触った手を洗う前に口や鼻や目を触ると感染し易い - 症状がある人がマスクをする、トイレは蓋をしてフラッシュする
- 十分な換気をする
- 2m以上離れる
- 換気が不十分なトイレや人の多い密室は利用しない、
- 健康者もマスクする
こんな感じかなと考えています。
実際には、2)〜4)が他力本願なもんだし、軽症でも感染している可能性があり、自分でも、医者でもよくわからないから、健康者もマスクする必要がでてるんだと思います。
ただ、無症状の人が屋外歩く時はマスク不要だと思うし、一人で車に乗っている人がマスクしてるのも変です。
なお、エアロゾルになったら、N95マスクでないと、無理ですので、換気不十分なトイレや人の多い密室は怖いです。
そんなことで、これらをふまえて、現在生馬医院で行っている院内感染対策について、次回まとめてみたいとおもいます。
これだけの内容わかっておいてもらわないと、発熱者だけ隔離してるクリニックが最高!みたいに誤解されてしまいます。
生馬(いこま)医院
小山博史
和歌山市吉田436
073-422-1458
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