和歌山市 (JR和歌山駅近く)にある小児科 ・ 内科 医院,小児科 専門医、臨床内科専門医がそれぞれ担当, 循環器 ・ 呼吸器 ・ アレルギー , 発達障害 ( ADHD ), トラベルクリニックにも対応

発達障害とIQ検査とワーキングメモリー

発達障害とIQ検査とワーキングメモリー

a:49097 t:14 y:139
 今日は、ちょっと頭がこんがらがる様な話を書きます。

 当院は、発達障害の外来を行っています。おもに当院で診断している発達障害は、注意欠如・多動症(昔の注意欠陥多動性障害)、自閉症スペクトラム障害(昔の広範性発達障害やアスペルガー障害)、発達性協調運動障害の組み合わせです。

 ここに音韻認識障害や視知覚認知障害が加わると、発達性ディスレクシア(発達性読字障害)~書字障害、数概念の障害などが加われば算数障害という事になります。

 また、これらの障害に、二次障害として、睡眠障害、うつ病、重篤気分調節症、双極性障害、強迫性障害、社交不安障害、反抗挑戦性障害、行為障害などが合併して不登校が出来上がってたりします。

 こういった方々に投薬を行い、症状を緩和させたところで、的確に行動療法を入れて、多動や反抗挑戦性障害、行為障害を無くし、作業療法や感覚統合療法を入れて不器用さ、多動性を改善させ、特別支援教育を入れて学力の低下を防止し、ソーシャルスキルを教育していきます。

(作業療法や感覚統合療法は主にさくらクリニックの言語聴覚士の和田さんにお願いして施行していただいています。先週は、当院でカンファレンスを行い、患児の治療方針や療育方針について、話し合いました。今後は学校の先生も交えてskype会議を定期的に行ってみようという事になりました。)

IQと発達障害

これらの発達障害の診療で知能検査は長く重宝されてきました。
IQ(知能指数)、とくによく行われているWISC IVなどは、様々な知的検査(積み木、単語理解、絵の概念、数唱、符号・記号並べ等)を行い、言語性知能、知覚性知能、処理速度、部分的な言語性ワーキングメモリーなどの各分野での正常からの逸脱程度を計測します。

IQ=100が丁度平均で、標準偏差が15となるように作られており、一般的に知能低下はIQ75以下からという事でした。各種手当や手帳を得るために知能検査が必須で、IQによって重症度が区分けされ、手当てが決められていました。

 しかし、最近はIQが生きづらさを必ずしもあらわさない、つまり、IQが正常でもまともに社会生活が送れないという事が徐々に認知されてきて、アメリカ精神医学会の改訂診断基準 DSM-5ではIQによって自閉症の重症度を分類するのではなく、どれだけ援助を必要とするかで重症度を分けて行こうという方向になってきました。ちょうど日本の福祉関連の診断書でも、過去はIQが低くなければ特別児童扶養手当は認定されていなかったのですが、最近はどれだけ援助が必要な状態か?が重要視され、認定基準となってきています。

 また、特別支援教育の世界でも、昔は、発達テスト(主にWISC)の結果に基づいて教育方針を立てていましたが、IQと学校の成績が相関しないという事から、あまりあてにならないという事になり、ワーキングメモリーという考え方が重要視されてきました。(IQテストで小学校入学テストをおこなって、成績上位を入学させても、30%程度の学習困難者が必ず入ってくるんだそうです。)

ワーキングメモリーって何?

ワーキングメモリ (working memory:作業記憶,作動記憶) とは,短い時間に心の中で情報を保持し,同時に処理する能力のことを指します。これは心理学上の名前です。最も代表的な仮説としてBaddeley ら(2009) のモデルがあります。
BaddeleyWMモデル
このモデルでは、脳の中には、言語性ワーキングメモリーとして音韻ループ、視覚性ワーキングメモリーとして視空間スケッチパッド、それらを統合するエピソーディックバッファ、が存在し、中央実行系がそれらを統括し、最終的に長期記憶装置につながるというモデルです。

 この仮説は、現在のFunctional MRIなどによる検証実験で各々の役割を担う脳内部位が特定されてきております。

以下は主に言語性ワーキングメモリーについて述べてみます。

音韻ループ

 黙読するとき、多くの人(速読者は除く)は心の中で声を出して読んでいます。その時に使う部分です。音韻貯蔵庫に入った言葉は、構音リハーサルによって、消えそうになっては、よみがえるという事を繰り返しながら、言語の短期記憶が維持されます。

※これは、主に『意味を理解し難い文』や、『初めての言葉』などを読むときに顕著に表れます。意味の分かりやすい文や、初めてではない言葉の場合は、見た文字や聞いた言葉の内容が脳内意味辞書(レキシコン:下後頭側頭回)で即座に意味経路から画像経路に変換されるため、音韻ループを介さないと言われています。


たとえば、7ケタの数字を覚えようとします。あなたは、その数字を心の中で唱え続けることが出来る間は、その数字を忘れません。この心の中で唱えるという行為を構音リハーサルと言います。構音リハーサルをかけながら覚えておける最大の数が短期記憶力になります。

 覚えていられるのは、その7ケタの数字が心の中で唱え続けていられるからで、もしその時、目の前に絶世の美女、美男子が現れて、声をかけられたら、どうなると思いますか?

 その美女・美男子との会話にメモリーが使われてしまい、7ケタの数字を唱え続けていられなくなり、徐々に数字が消えていきます。

 この時、美女・美男子との会話をしながら、なんとか記憶にのこっていた数字の数があなたの言語性ワーキングメモリーの量という事になります。

 通常成人は5~7個の数字や言葉を保持するワーキングメモリーを持っています。この、実行機能を使いながら保持する言葉の数をチャンクと言います。

 通常の成人は5~7個の数字を保持できます。言葉の場合は、大体2~4語(チャンク(chunk))です。これは年齢の影響を受けます。

 言語性ワーキングメモリを調べる日本語Reading Span Testの結果では、平均では、小学校1年性で1チャンク、5年で2チャンク、大学生で3チャンク程度です。加齢とともに低下していきます。


 もうすこし、実際的な話にしましょう、今、子供が96×24という計算を筆算でしようとしています。

 まず、4×6を行い24という数字をだします。で、4は書いておいて、2は頭に覚えます。覚えておきながら次に4×9を行い36を出してきます。その36と覚えておいた2を足して38にして、先に書いておいた4の前に書いて384にします。

 とここで、頭に覚えておいた2の部分が言語性ワーキングメモリです。これも、筆算であれば、1チャンクあれば、十分に解ける問題です。


 では、次に学校での授業の場面を想像しましょう。
学校の先生が以下のような話を授業中に黒板に書いたり、話したとします。

「リンゴが23個あります。5人で同じ数だけ分けて、余った数を求めなさい」

この時、短期記憶に入れるのは、①リンゴ、②23個、③5人、④同じ数、⑤余りは? とい言った5個のメモリーでしょう。
これを立式するわけですが、立式にまたメモリーを使います。
メモリーを使いながら、23÷5=を行うわけですが、⑤余りは?の部分だけは覚えておく必要があります。この⑤の部分が言語性ワーキングメモリで、つまり、この問題で必要な言語性短期記憶(メモリー)は5チャンクで、言語性ワーキングメモリーは1チャンクという事になります。

では、この問題を少しいじって、以下のようにしてみます。


「リンゴが23個あります。大人8人で同じ数だけ分けて、余った数を子供3人に同じ数だけ分けてあげます。子供がもらえるリンゴの数を求めなさい。」

この時、短期記憶に入れるのは、①リンゴ、②23個、③大人、④8人、⑤同じ数⑥余りを⑦子ども⑧3人⑨同じ数 といった9個のメモリーでしょう。
メモリーを使いながら、23÷8=を行うわけですが、⑥余りを⑦子ども⑧3人⑨同じ数 の部分だけは覚えておく必要があります。この問題で必要な言語性短期記憶(メモリー)は9チャンクで、言語性ワーキングメモリーは4チャンクという事になります。
 しかし、この解き方は純粋に言語性ワーキングメモリだけで解こうとしていますので、これでは、小学校3年生では、そもそも2チャンク程度しかありませんので解けない子供が出てきます。そこで、

  1. 覚えておくべき部分に下線を引かせたり、どこかに書かせたり、
  2. 問題を二段階に分けて問う方法に変えたり
  3. グラフや絵に書いたり

して解きやすくします。これを「方略を教える」と言います。まさにこれこそ教育であります。

  1. はメモリーできない分を書かせる方法で、欠点は字が汚いとミスの原因になります。

  2. は二段階に分ける事に慣れていないといけません。また、自閉症のように、変化を拒み、今まで分けずに解いてきたのだから、今回も分けたくないと意地をはる子どもはうまく解けません。また、自閉症の子供によくあるのですが、なんで先に大人から分けるのだ?先に子供からなぜ分けないのだ?などと余計な事を考えると、その間に、短期記憶した内容が消えたり、数字の8が良く似た形の3に変わったりします。

  3. は前述の視覚性ワーキングメモリーを使用する方法で、大概はうまくいきますが、視覚性にも問題がある子どもはうまくできません。

 教育とは、こういった方略を教えながら、言語性、視覚性ワーキングメモリーを使用しつつ、最終的な解き方をエピソーディックバファを通して長期記憶に入れていく作業であり、これが、Alloweyの唱える、学校成績と優位に相関するのは、IQではなく、ワーキングメモリーであるという根拠になります。
 つまり、その子供のワーキングメモリーの分布に応じた方略を使って長期記憶に入れやすくしてあげる事こそが教育であり、そのためにも障碍児のワーキングメモリアセスメントが重要であるというのです。

流動性知能と結晶性知能

Cattell,R.Bは、知能(IQ)には流動性知能と結晶性知能の主に二種類あると提唱しています。

流動性知能とは

 新しい場面への適応に必要な能力の事で、推論する、思考力、暗記力、計算力などが挙げられ、集中力やワーキングメモリも流動性知能の一部です。
しかし、Ackermanらはワーキングメモリと流動性知能に関する分析で、ワーキングメモリと流動性知能が共有する部分は20%に過ぎない事を示しています。

結晶性知能とは

 過去の学習経験が土台になる専門的または個人的な能力であり、流動性知能が土台となっています。免許や学位などの専門的な知識や、料理などの日常の習慣、長年にわたる趣味の手順や方法なども結晶性知能にあたります。

 IQテスト結果は主に親の収入や裕福さと正の相関があります(※つまり結晶性知能は親の裕福さと相関する)が、ワーキングメモリは全く差がありません。

※裕福な家庭の子供は、家庭教師など、より手間とコストをかけて知識を教育されており、その結果結晶性知能が高くなっている。

 Alloweyの言う「IQテストには、学力に無関係な部分が多く含まれている理由」は、この結晶性知能のパートが多く、流動性知能を測っていたとしても、ワーキングメモリの占める割合は20%と低く、必要な検査が足りないからではないかと考えられます。
 実際、WISC4に新しく含まれたワーキングメモリの検査、語音整列は、無意味な単語の整列であり、短期記憶である数唱と合計されて点数化されてしまい、純粋ではない、一部の言語性ワーキングメモリが測定されているにすぎず(不正確な言語性ワーキングメモリ測定)、まして、視覚性ワーキングメモリは全く無視されています。

 それでも、WISC4からある程度視覚性短期記憶力と視覚性ワーキングメモリーを推定する事は可能ではあります。
 知覚推理(PRI)に含まれる「絵の概念・行列推理」は非言語性流動性推理であるため、やや視覚性ワーキングメモリに近く、処理速度(PSI)「積み木模様・絵の完成」は、視覚的処理能力であるため、視覚性短期記憶力に近い存在ですが、あくまで推定できる程度です。

授業態度とワーキングメモリー

 広島大学教育学部 湯澤教授の調査で、授業態度とワーキングメモリーに以下のような相関が認められています。この項目に当てはまる事が多く、かつ国語や算数の成績低下が著しい場合は、一度検査を受けてみても良いかもしれません。

●言語性短期記憶の問題

  1. 教師の指示をすぐに忘れる
  2. 国語の時間,読みのミスが多い
  3. 算数の時間,九九がなかなか覚えられない
  4. 外国語活動のときなど,外国語の耳慣れない言葉を真似して繰り返すことが苦手

言語性ワーキングメモリの問題

  1. 話し合いのある活動になかなか入れずまた話についていけない
  2. 作文や日記を書くのが苦手
  3. 国語の時間,読解問題につまずく
  4. 算数の時間,文章題につまずく

視空間性短期記憶の問題

  1. 黒板の文字をノートに書き写すのが遅い
  2. アナログ時計を読むのに時間がかかる
  3. 算数の時間,三角形や四角形の性質について理解しにくい
  4. 図工の時間,絵や模様などを描き写すのが苦手

視空間性ワーキングメモリの問題

  1. 体育の時間,ラジオ体操やダンス等の一連の動作を,覚えるのが苦手
  2. 理科の時間,複数の実験器具を操作しながら実験を行うのが苦手
  3. 算数の時間,図形の展開図が理解しにくい
  4. 生活科の時間,地図を使って学校探検や商店街調べを行うことが難しい

まとめ

 教育とは、無知な子供に、知識を植え付ける事だとすれば、それは、すでにある知識(結晶性知能)なぞ、不要で、その子供の学ぶ力(ワーキングメモリ)こそが鍵となる。

 こういった事から、生馬医院では、軽度発達障害関連で学力の問題や物忘れの診断と支援を行う場合、単なる発達IQテストより、2種類づつある短期記憶・ワーキングメモリのそれぞれの検査がとても重要と考えています。

脈絡なく長々と書いてしまいました。
本日のブログ内容を理解できるかたは、言語性ワーキングメモリーの多い人かもしれません。

 まだまだ言いたいことは多いのですが、長くなりすぎるので、今回はこの程度にしておきます。

また書きたい事

  1. 前部帯状回と注意・感情の制御
  2. ワーキングメモリから考えたADHD
    1. なぜADHDの中にとんでもなく賢い奴が存在するのか?
    2. なぜ多動は治って、不注意は残るのか?
    3. なぜ成人発症のADHDに小児期の病歴がない人が存在するのか
  3. 自閉症のワーキングメモリー
    1. 自閉症が陥りやすいワーキングメモリー障害

リンク

  1. 発達障がい児のためのサポートツール・データベース
  2. 読める!書ける! - 京都府教育委員会
  3. LD等通級指導教室の『運営』&『活用』ガイドの構築(1年次)その1
  4. LD等通級指導教室の『運営』&『活用』ガイドの構築(1年次)その2
  5. 読字・書字のつまずき把握と指導・評価”実践事例集

    コメント

    • ワーキングメモリについて

      おはようございます。はじめまして。たかしです。私は42歳ですがワーキングメモリの低下と思われるミスが会社で連発して、職場での信頼がかなりなくなってしまったのを機ににネットを通じてですが、脳科学や心理学を通じてワーキングメモリについて学んで実践していこうと思ってます。
       先生のプログでワーキングメモリの記事を見て興味持ちました。また書きたいことの内容もとても興味があります。もう出されてるのでしょうか?


    • Re: ワーキングメモリについて

      >>1
      たかしさん。ご意見ありがとうございます。
      また書きたい内容、実はまだ文献的な裏付けが完全に取れていない部分を含んでおり、著者の経験からの推測の部分が多く、書くのを躊躇してます。もう少し固まってから書こうと思っていますので、しばらくは、自閉症特集で参りたいと思いますww



    認証コード4602

    コメントは管理者の承認後に表示されます。

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional